【バンコク18日】「俺は、自分からミランを出ていくことはない」-。日本代表のFW本田圭佑(29=ACミラン)が、素直な胸中を明かした。日本初のW杯予選5戦連発を決めた2次予選カンボジア戦(アウェー)から一夜明けたこの日、ミラノへ戻る道中で日刊スポーツの独占取材に応じた。今日から2回にわたり、本田の肉声を届ける。第1回は「移籍騒動の真相」。

 日本代表とACミランとで、本田は異なる状況に置かれている。W杯予選5戦連発を挙げた代表とは対照的に、クラブでは先発から外れ、日の当たらない場所へ追いやられつつある。イタリアでは自ら移籍を申し出て、今冬にも退団するとまで伝えられた。さらに、東南アジア遠征中には本田の代理人とされる人物が、ウェストハムとの接触を認めたとの報道もあった。プノンペンからバンコク経由でミラノへ戻る道中、本田は声を大にして言った。

 「1つ言えること。俺の代理人はマイブラザー(兄弘幸氏)。いつも、誰が(移籍のうわさを)言っているのかは分からんけど、俺は逃げることはしない。これだけはハッキリ言うけど、自分からミランを出ていくことはない。何のために俺がミランに来たのか? 確固たる決意を持って来ているからね。だから、ミランから『もういらん』と言われない限り、自分から出ていくことはないです」

 苦境に立たされても、決して心が折れることはない。リーグ戦は9月22日ウディネーゼ戦を最後に、2カ月近くも先発から遠ざかっている。日本代表として同行した10月の中東遠征後は、全試合で途中出場。常に10分足らずの出場時間しか与えられていない。背番号10を背負いながら、今季はまだ無得点。現状はしっかりと受け止めつつ、それでも前進しようとしている。

 「もちろん、今の自分のふがいない結果は認める。ただ、個人的には巻き返せる自信はある。(ACミランの)復権に関しても、難しいことではあるけれど、全く諦めてはいない。復権できると信じて、変わらず全力を注ぐ方針であることは間違いない。そもそも(CSKAモスクワから)移籍してくる前から、ACミランの難しい状況は分かっていたからね。想像以上の難しさはあるけれども、諦めるはずもない。個人的な巻き返しと、ミランの復権。これが、俺の近未来のビジョンですよね」

 逃げ出すことはしない-。その言葉は、本田の生きざまそのものでもある。オランダ・VVV時代は2部リーグを経験。CSKAモスクワでも故障や、本意ではないボランチで起用されるなど、常に試練を乗り越えてきた。代表でも当初は、本田が入れば連動性が崩れると非難されたこともある。困難に立ち向かい、今がある。

 「ミランであまり試合に出られていない現状はあるけれど、俺はサッカー選手というくくりだけで全てを考えてはいないんです。人間として、本田圭佑がどう歩んでいくかを考えている。自分のスタイルに合っていないから、今は試合に出られていないから。だから、必要とされるクラブに行くべき-。それも分かるよ。でも、俺はたまたまサッカー選手をやっているけれど、あくまでも人として、世界中の自分のファンに恥じないような生き方をしていこうと考えている」

 航空機を待つ早朝の空港搭乗口。そこまで話すと、窓の向こうから朝日が昇って来るのが見えた。暗闇にいる本田に、光が差し込むかのように。【益子浩一】

 ◆本田の発言が一切ないままヒートアップした移籍騒動 5日に一般紙のコリエレ・デラ・セーラが「本田がガッリアーニ副会長に、来年1月に移籍させてほしいと頼んだ」と報じた。6日のアタランタ戦前日会見ではミハイロビッチ監督にも「本田が1月に移籍志願したが」という質問が飛んだ。指揮官は「誰でも、もしミランにいることに満足していないのならここに居続けることは義務ではない。出て行くのは自由だ」と答えた。同日、クラブ公式番組のミランチャンネルで同副会長は「本田から出て行きたいと言われてはいない」と話し、報道を否定している。