W杯(ワールドカップ)ロシア大会の開幕まで14日であと4カ月となる。昨季急成長を遂げてハリルジャパンに欠かせない戦力となったMF井手口陽介(21)はガンバ大阪からイングランド2部リーズへ飛び出し、現在は期限付き移籍でスペイン2部クルトゥラル・レオネサでプレーする。移籍後初めて日本メディアの単独取材に応じ、自身初の海外挑戦の今を語った。

 穏やかな田舎町の雰囲気漂うスペイン北部のこぢんまりとした街レオン。中心部にある大聖堂の鉄柵をゴール代わりに、子どもたちがボールを追いかけていた。子どもたちに「最近レオンにきた日本人を知ってる?」と尋ねると、すぐに答えが返ってきた。「知っているよ、金髪の選手でしょう!」。金色の短髪は現地でも目立っていた。

 井手口は待ち合わせ先のスタジアムに現れた。既にデビューし、初戦から出場時間を10分、45分と伸ばす中、海外でプレーすることの難しさをすぐに感じたという。「戦術もそうだけど、理解しているつもりでもできていない部分が多くて。今は考えながらプレーしているから、その分、反応が遅い」。迷った瞬間に相手に振り切られる。考えずとも自然に体が動いたG大阪の時とは勝手が違った。

 思うように会話できないもどかしさはピッチ外でも少なくない。練習場へは近くに住むチームメートに車で送ってもらっているが、話を弾ませることは難しい。「ロッカーでみんながしゃべっている中で1人でぽつんといることもありますし、なかなか難しいですよ。『これが海外でプレーするっていうことなんだ』と自覚した。想像はしていましたけど、いざなってみるときついなというのはある」。試合前のウオーミングアップでは仲間とじゃれ合う姿も見られたが、素直な心の内を明かした。

 生活リズムも日本と異なり、午前10時ごろにチーム全員で朝食を食べてから午後1時すぎまで練習し、昼食は午後3時ごろだ。夕食もスペインでは午後9時を過ぎるのが普通。家族と暮らす井手口は「(夜は)早い時間はお店が開いてないこともある。だから外食は全然しない」と午後7時ごろ食事をとる。昼はスペイン時間、夜は日本時間という“二重生活”の日々だ。

 W杯を約半年後に控えたタイミングで選んだ海外挑戦。G大阪の中心選手だったが、レベルアップのためには必要だと感じていた。代表活動で、海外組の選手が練習から高い強度で体をぶつけ合う姿を目の当たりにした。「これが普通の基準なんだな。自分もその世界に行きたい」。コンタクトが激しいことで知られるスペインには想像通りの世界が待っていた。「すごく激しい。だから楽しい」。感じる苦労より、思い描いた場所でプレーする喜びが大きい。

 試合を通して「このままの自分では絶対にいけない」と感じた。ボールを奪いにいこうとしてもいつ仕掛けてくるか、パスを出すのか、読めないボールの持ち方をされる。日本では経験しないものだった。それは同時に、持ち味である守備力をまだまだ向上できると気付いた瞬間でもあった。「強い選手からいろんなものを吸収して、少しでもレベルアップできれば一番いい」。W杯出場を決めた昨夏のオーストラリア戦のスーパーゴールから急激に存在感を高めた21歳。挑戦の場を見つけた男の表情は終始、明るかった。【取材・構成=岡崎悠利】