アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領(62)が先週、同国とコロンビアで共催されるサッカー南米選手権(6月13日~7月10日)の開催について懸念を表明した。今後の新型コロナウイルスの感染拡大をきちんと計算に入れた上で、大会を行うかどうか慎重に検討すべきだと求めたのだ。

同大統領は地元ラジオ局「ラジオ10」の取材に対し「南米選手権の開催を邪魔するつもりはないが、我々は物事をしっかりと理解し、十分注意しながら事態の推移を見ていくべきだ。まだ時間はある。この先どのような展開が待ち受けるのか、我々はコロナを制圧できるのか、見ていきたい」と話した。

今回の南米選手権はもともと昨年開催される予定だった。それがコロナのまん延のために1年延期となっていた。東京五輪とまったく同じケースだ。ゲスト国として参加予定だったカタールとオーストラリアは日程調整がつかず、出場を辞退。南米サッカー連盟(CONMEBOL)に属する10カ国だけで争われることになった。

ただ、大会を1年延期したとはいえ、現在もコロナは南米で猛威をふるっている。死者数が37万人を超えたブラジルは言わずもがな。比較的封じ込めに成功していると言われていたウルグアイや、ワクチン接種がハイスピードで行われているチリでも新規感染者は増え続けている。

当のアルゼンチンでも状況は深刻だ。14日には1日の新規感染者数が2万5000人を超え、わずか24時間で368人が亡くなった。これでトータル268万人が感染し、5万9000人が命を落としたことになる。

アルゼンチンやブラジルをはじめとする南米の人々にとって、サッカーは単なるスポーツの1競技ではない。文化であり、彼らのアイデンティティーであり、生活の一部、いや生活そのものだという人も多いだろう。

ブラジルでは16年リオ五輪をきっかけに多くの種目で競技人口が増えると見込み、施設などに積極的な投資が行われた。だが五輪後もサッカー以外の種目の競技人口はそれほど変わらなかった。その結果、多くの施設があまり手入れもされず、負の遺産と化してしまっている。

他競技をおとしめるつもりはないが、南米の人々にとってはスポーツ=サッカー。それくらい特別なものなのだ。にもかかわらず、それを十分理解しているであろうアルゼンチンの大統領が、南米選手権という一大イベントの開催に疑問を投げかけたのだ。この意味はとてつもなく大きい。

先日、中国・北京に本社を構えるシノバック・バイオテック社が、南米選手権に参加する選手たちのために、ワクチン5万回分を寄付することが発表された。中国製ワクチンは有効性が低いとは言われているものの、どこかと違ってあるだけマシだ。だがワクチンをもってしても南米選手権開催へのゴーサインはすんなりとは出ないのだ。

日本人は幸運にも何らかの要因によって、欧米人よりもコロナが重症化しにくいと言われている。だが世界に目を向ければ、それがいかに危険なウイルスであるかは一目瞭然だ。我々もアルゼンチンの大統領が言うように物事をしっかりと理解できる知性を持ち、十分な注意を払いながら、コロナ禍での正しい判断をしていきたいものだ。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)