パリ大会から7月21・22日のロンドン大会までが、ヨーロッパ主要都市が多く含まれるダイヤモンドリーグ中盤の山場である。パリ大会には昨年のロンドン世界陸上金メダリストが9種目にエントリー。女子800メートルのカスター・セメンヤ(27=南アフリカ)は24連勝中、女子走り高跳びのマリア・ラシツケネ(25=ロシア/個人参加)は44連勝中と、無敗街道を突っ走る2人の女王が注目される。また、男子100メートルで9秒91のアジアタイを出したばかりの蘇炳添(28=中国)ら、好記録が期待できるアジア勢も多く出場する。

 女子走り高跳びのラシツケネは2016年7月から屋外、室内すべての試合で勝ち続けている。15年北京大会、昨年のロンドン大会と世界陸上も2連勝。リオ五輪に勝っていないのは、ロシアのドーピング問題で出場できなかったからだ。

 6~7月はラシツケネの出場試合数がピークに達する。昨年は6月に7試合、7月に7試合と2カ月で14試合に出場した。今年は少し減ってパリ大会が6月5試合目である。記録的には「2メートル08を跳んでロシア記録を更新したい」と昨年の世界陸上で強調していた。

 国際大会は個人資格での参加だが、ロシア選手のプライドは持ち続けている。

 今季は8月にアジア大会(インドネシア・ジャカルタ開催)を控えるアジア勢に、好記録が続出している。一番の注目は男子100メートルの蘇炳添で、今月22日に走った9秒91はフェミ・オグノデ(27=カタール)が2015年に出したアジア記録とタイだった。

 オグノデはアフリカ出身の選手で、アジア出身選手としては蘇が15年に9秒99と初の9秒台を出した。桐生祥秀(22=日本生命)が昨年9秒98と更新していたが、それを6月19日に謝震業(24=中国)がフランスの大会で9秒97と上回り、3日後に蘇がスペインの大会で9秒91まで縮めたのだ。

 スペインの大会はダイヤモンドリーグより1つ下のワールドチャレンジミーティングのカテゴリーだった。パリ大会ではヨハン・ブレイク(28=ジャマイカ)ら昨年の世界陸上4~6位の3人が出場する。世界陸上8位だった蘇はスタートから序盤が強く、その3人をリードする展開が予想される。最後まで逃げ切れば、黄色人種が短距離でも世界のトップに立てることを示す快挙となる。

 男子400メートル障害に出場するアブデルラーマン・サンバ(22=カタール)は、6月10日に47秒41とアジア記録を更新。男子円盤投げにエントリーしたイフサン・ハダディ(33=イラン)は4月に68メートル85と、自身の持つアジア記録に47センチと迫った。

 そして最もアジア記録更新の可能性が高いのが、女子400メートルのサルワ・エイド・ナセル(20=バーレーン)だ。6月10日に49秒84と、アジア記録に0・03秒差まで迫った。

 日本からは山本聖途(26=トヨタ自動車)が男子棒高跳びに出場する。2013年のモスクワ世界陸上で6位に入賞したが、その後は腰痛などもあり国際大会で活躍できていない。14年アジア大会と16年リオ五輪では記録なしの屈辱も経験した。

 一昨年頃から腰痛を克服し、昨年から小林史明コーチに指導を受け始めて技術的にも見直しを図っている。先週の日本選手権で5メートル70を跳んでアジア大会代表を決めたばかり。

 パリ大会にはサム・ケンドリクス(25=米国)ら、昨年の世界陸上メダリスト全員、入賞者7人が出場する。リオ五輪と北京世界陸上の入賞者を加えれば9人となる。このメンバーの中で山本が8位以内に入れば、完全復活と評価できる。

 ◆ダイヤモンドリーグはIAAF(国際陸上競技連盟)が主催する単日、または2日間開催では最高カテゴリーの競技会シリーズ。2010年に発足し、一昨年までは年間総合ポイントで各種目のツアーチャンピオンを決定していた。昨年からシステムが変更され、ファイナル大会出場者を決めるクオリファイリング大会として12大会を実施し、16種目ずつを行うファイナル2大会の優勝者がダイヤモンドリーグ優勝者となるチャンピオンシップ形式になった。各クオリファイリング大会の種目別賞金は3万ドル(1位1万ドル~8位1000ドル)で、各種目は年間4~6大会で実施される。各大会のポイント(1位8点~8位1点)合計上位8人(種目によっては12人)がファイナル大会に進出。ファイナル大会の種目別賞金は10万ドル(1位5万ドル~8位2000ドル)で、年間優勝者には賞金5万ドルとダイヤモンド入りトロフィーが贈呈されるのに加え、来年の世界陸上への出場権が得られる。出場者はトップ選手に厳選され、ほとんどの種目が予選なしの一発決勝で行われるため、緊張感あるレースがスピーディーに続く。また、オリンピックや世界陸上のように1種目3人という国毎の出場人数制限がないため、ジャマイカ、アメリカ勢が揃う短距離種目や、アフリカ勢が多数出場する中・長距離種目など、五輪&世界陸上よりレベルが高くなるケースもある。