「ソウル五輪代表は自分の力でつかむ」。瀬古利彦(31=エスビー食品)のびわ湖毎日マラソン(3月13日)出場が19日、正式に決定した。瀬古はソウル五輪選考会の福岡(昨年12月6日)を左足首ヒ骨ハク離骨折で欠場、残りの選考会の東京(2月4日)、びわ湖のどちらを選ぶかを日本陸連の小掛照二強化委員長と19日午前中に協議し、瀬古の意思であるびわ湖に最終決定した。小掛委員長は「少なくとも優勝」を条件とした。

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「オリンピックにはどうしても出なければいけないと思います。ケガをして、応援してくださる人がたくさんいることを知りました。それにこたえるためにも代表になっていい成績を残したい」。19日午後7時36分、渋谷の岸記念体育会館で行われた会見で、力強く、熱っぽく話した。自分が出場するびわ湖を通り越して、ソウルでいい成績を残したいとまで言い切ってしまったのは、自分が選んだびわ湖で、納得のいく成績を残せる自信があることの証明でもある。

瀬古は午前10時半、東京駅近くの八重洲富士屋ホテルで、エスビー食品の小林尚一スポーツ推進局長とともに小掛委員長と会った。約1時間、現在の体調と調整具合を報告し、「今までのマラソンの中で最も慎重に取り組まざるを得ないので、少しでも調整期間の長いびわ湖で走りたい」と意思を述べ、小掛委員長も了承した。

瀬古は当初、キャステラ(豪州)、イカンガー(タンザニア)ら強豪の出場する東京で再起を図るつもりだったが、ケガの回復が意外に遅く、本格的な始動が遅れた。それでも6日からの沖縄・西表(いりおもて)島での合宿では連日30キロ以上。多い日は50キロを走り込めるまでに回復した。「東京でも走れないことはない。でも、ぼくにとってソウルへつなぐ大事なレース。無理はできない」とはやる心を抑えた。

瀬古の意思を尊重した小掛委員長は「マラソンはコンディションに左右されるから記録がどうのということは難しい。今回は優勝しなければ論外だし、みんなが納得できるタイムは欲しい」と語り、福岡3位の工藤一良(26=日産自動車)の扱いについては、「瀬古やほかの選手と横一線。東京、びわ湖で好成績を収めた人を考慮して3月19日の理事会で決める」とした。

瀬古自身も記録については「出るかどうか分からない。台風が来て、2時間8分で走れといっても無理です。記録より自分が納得できるレースをしたい。僕もすっきりした形で選ばれたいと思います。もし、自分の成績が悪ければ(代表を)辞退するかもしれません。3人目? それは僕が決めることではないでしょう。陸連が決めることだと思います」と話した。小掛委員長は代表切符を得るための記録についてのコメントはしなかった。条件次第でタイムが変化することがマラソンの特徴でもあるからだ。

瀬古は午後、水戸まで出掛け足の裏のマッサージを初めて受けた。「予防措置です。気持ち良かったです。ケガも心配ないし、あとは自分の力で切符をつかむだけです」と言い切った。孤独なレースに挑む瀬古だが、自信はよみがえってきた。【黒木】

 

◆瀬古に直撃

-西表島では十分走れた

瀬古 自分のトレーニングをする上でいい環境、大きな自信になりました。

-体調は全盛時のどのくらい

瀬古 本格的に走り始めたばかりで75%ぐらいでしょう。

-決めてスッキリした

瀬古 これから集中して練習ができます。26日からは再び西表島で走り込んできます(2月2日まで)

-ケガの不安は

瀬古 ひねらなければ大丈夫です。でも、道路の悪い所は下を向いて走り、気をつけています。

-ライバルが出ないのは

瀬古 自分で自分を追い込みたい。そして乗り越えていきたい。人間は追い込まれないと力を発揮できないので、追い込んで、自分の手でつかみたい。

-プレッシャーは感じる

瀬古 やはり感じますね。でも、走り込めて、自分にもまだ、これまで積み上げてきたものが残っていることを確認できたのは良かったと思います。とにかく自分の走りをするだけです。

 

◆「第3の男」工藤は淡々

第3の代表の座決定をだれよりも待ち望んでいる工藤一良(26=日産自動車)は19日午後3時15分から、横浜市子安の日産グラウンドで通常通り約1時間のランニングを行った。福岡で日本人3位(総合4位=2時間11分36秒)と五輪への目標を達成したが、既に1カ月以上立場は保留されたままになっている。

「瀬古さんが走っても、僕がとやかく言う立場ではない。まして文句や恨み言を言っても何の意味もない」。東京、びわ湖のいずれにも出場せず、すべてが瀬古、陸連次第という複雑な立場だが、恨みがましい表情はない。「周囲はどうでも自分は福岡でいい仕事をしたと思っている」と堂々と言った。【増島みどり】

 

◆福岡不発の谷口は東京国際へ

福岡で実力を発揮できなかった谷口浩美(27=旭化成)と伊藤国光(32=鐘紡)の二人が、東京国際マラソン(2月14日)に挑戦することが19日、発表された。谷口は福岡で2時間12分14秒で6位(日本人4位)、伊藤は2時間14分52秒で17位(日本人9位)となりソウル切符を逃している。東京で好タイムで走り切れば、3月のびわ湖での瀬古の記録次第では大逆転の滑り込みセーフも考えられる。

伊藤は「自分としては福岡で一度は死んでいる身。気楽に走ります。自分なりの走り、記録が出せればいい(2時間10分前後)。びわ湖より気象条件がいいから、東京を選んだ。瀬古君もびわ湖でいい走りを見せ、われわれを納得させてほしい」と語った。そのほか仙内勇(ダイエー)、大須田祐一郎(日本電気)らも東京に出場する。