2020年東京五輪の正式種目に決まった空手競技について、思うことがあります。

 先日、NHKの番組に世界王者の荒賀龍太郎選手が出演していました。空手界で世界一のスピードを持つと言われ、「スピードドラゴン」の異名を持つ荒賀選手が「ろうそくの火」を正拳突きで消すパフォーマンスを披露していました。

 番組では早いスピードの理由の1つに、肘を中心にテコの原理でスナップをきかせ、拳を飛ばしていることを挙げていました。確かにスナップをきかせると、肩や腕にむだな力が入らずにスピードが早くなるのですが、この突きで本当に相手を倒せるのでしょうか。

 拳の握りの甘さも気になります。しっかりと握り、人さし指と中指の付け根の骨でたたく。つまり、面でなく点に力を集中させることで、効果的な攻撃を生み出せます。握りが甘いと、相手を殴った瞬間にパワーを一気にはき出す「極め」ができないし、突き指などのけがにもつながります。

 な~んていうことを言うのは、現代のスポーツ空手競技ではナンセンスなのかも…。「1本を取る」柔道がポイントを取るJUDOに変わったように、「一撃必殺」の空手もポイント制のルールに柔軟かつ忠実に対応をして、現在のKARATEに変節したのかもしれません。

 ここから少し思い出話が入ります。

 重量級で活躍する香川幸允選手の父・政夫氏は日本の空手チームの指導者です。数日前、民放の番組で、爆笑問題の太田光が笑顔を見せる政夫氏に「本当に強い人は優しいね」などと話していました。

 約30年前。当時、空手指導員でありながらバリバリの現役選手だった政夫氏から指導を受けたことがあります。2人で向き合うとまったく隙がない。無表情の顔からは、感情の動きも呼吸も読めない。感じることができるのは恐怖だけ。「そんな突きで人が殺せるか!」。言われた言葉は今でも忘れられません。今も当時の怖さを思い出すと、●●たまが縮み上がる気がします。

 寸止めルールといいますが、顔面には意識的に拳をライトヒットで当てるし、腹部は思いきり突き蹴りを入れます。当時の政夫氏の突きや蹴りも、鍛えていない人がまともに食らったら、間違いなく大けがをするものでした。

 かつて「一撃必殺」を体現していた武人として、政夫氏は現在の競技空手をどんな思いで見ているのでしょうか。私が現役時代、あれだけ握りの甘い拳をしていたら「巻きわら突き1000本で鍛え直せ!」と間違いなくどやされていたはずです。