20年東京オリンピック(五輪)で5連覇を目指す伊調馨(34=ALSOK)が「弱さ」を露呈した。16年リオデジャネイロ五輪以来の国際舞台に立った伊調は準決勝で昨年アジア大会優勝のチョン・ミョンスク(25=北朝鮮)に4-7で完敗。腰高の課題に加えて精神面の弱さを口にし、貪欲に勝ちにいくスタイルへの変更を宣言した。

まさかの光景だった。開始30秒、伊調が相手の正面からの両足タックルを受けた。軽々とバックをとられ2失点。天才的なディフェンス力が武器の女王が「対応できなかった」と厳しい表情で言った。片足タックルから背後に回られ、ローリングも許した。第1ピリオド(P)で1-7の大差。第2Pも逃げ切られた。

3位決定戦こそフォール勝ちしたが、女王の座に君臨してきた伊調には似合わない表彰台。「いいレスリングをした人が高いところにいた」と話した。昨年12月の全日本選手権の時、田南部コーチが「全盛期より3センチ高い」と指摘した腰高は直らず。この日の初戦では相手の頭が当たって前歯を折った。直後に歯医者に行った伊調は「バッティングしたり」と、原因が腰高にあることを分析した。

もっとも、技術以上に反省したのは精神面だった。がむしゃらに攻めてくる相手に浮足立った準決勝を振り返り「失点して、頭が真っ白になった。必死さが足りなかった」と話した。男性コーチと技術を追求して「きれいなレスリングを目指していた」が、これからは「泥臭くてもいいからポイントを取る。勝つレスリングへ、一からやり直したい」と決意を口にした。

4連覇まで無敵だった。「まあ、強かったんでしょうね」と笑い「今はレスリングできることが幸せで、幸せボケしていた」と振り返った。だからこそ、気がついた「勝つ」ことの大切さ。6月には世界選手権代表を争う全日本選抜が控える。ライバル川井梨紗子が敗戦に何を思うか。「こんなもんか、と思ってもらえればうれしい。こんなもんじゃないので」。弱さを認めた伊調は、さらに強くなる自信を込めて言った。【荻島弘一】

◆伊調の敗戦 01年12月の全日本選手権で吉田沙保里に敗れ、63キロ級に転向。03年3月にサラ・マクマンに敗れて以来、07年5月のアジア選手権不戦敗を除けば16年1月にプレブドルジに敗れるまで189連勝した。海外選手とはシニア転向後20年で、この日を含めて158戦し153勝5敗(1不戦敗含む)。対日本選手では昨年12月に川井梨紗子に17年ぶりの黒星を喫している。

◆東京五輪への道 男女ともに今年9月の世界選手権(カザフスタン)のメダル獲得者は代表に決定。5位以内で出場枠を獲得し、メダルを逃した選手は12月の全日本選手権優勝で代表に決まる。世界選手権代表は昨年12月の全日本選手権と今年6月の全日本選抜で選考。両大会の優勝者が異なる場合はプレーオフを行う。女子57キロ級の伊調は全日本優勝で川井梨紗子を1歩リード。ただし、選抜、プレーオフ連敗で世界選手権代表を逃せば、東京五輪出場は厳しくなる。