勢いづく東京オリンピック(五輪)の星が日本の頂点に立った。橋本大輝(18=市船橋高)が86・031点で初優勝を飾った。先月の世界選手権で世界デビューし、鮮烈な印象を残したばかり。最後の鉄棒ではぶっつけ本番の攻撃的演技構成を成功させ、見事な逆転勝ちを収めた。2位の萱和磨(22)とともに来春の個人総合ワールドカップ(W杯)の出場権を獲得。同シリーズの結果次第で、最短ルートで東京五輪代表に決まる。

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最終種目の鉄棒の演技前、橋本の目に飛び込んだ現実。「いま5番か…」。迷いを生むため順位は気にしないよう心がけていたが、思わぬ失敗。ただ、これが覚悟を決めた。「どうせ勝てるか分からない。思い切り攻めるしかない」。

窮地にいた。今大会は技の難度を示すDスコアが35点以上でなければ、0・5点引かれる特別ルールがあった。発端は2種目目のあん馬。E難度技を実施できず、プランが狂っていた。鉄棒が予定通りの構成なら34・9点。あと0・1点を捻出するため、勝負に出た。伸身と開脚のトカチェフを連続させ、0・1点を上乗せする。「やります!」。コーチに力強く宣言し、決めてみせた。着地もピタリ。両拳を振り上げた。

ここぞの集中力は幼少期の環境で培った。中学まで通った佐原ジュニアには、ケガ防止用にクッションが詰まるピットがない。常に緊張感が友達。「ピットがないからこそできる練習がある」とは恩師の山岸先生の弁。いまは設備充実の高校が拠点だが「僕はピットで1本通ったら次は絶対に陸(ピットなし)で通す」。佐原での試合を想定した練習が、1本にかける集中力を生む。

世界選手権では団体予選4種目でチーム最高点を稼ぎ、2種目で種目別決勝にも進んだ。日本の新たな宝として世界に印象を残し、それから3週間。「日本を引っ張る存在になりたい」。この日の鉄棒だけではない。その言葉にも覚悟はこもった。【阿部健吾】