慶大3年の尾崎野乃香(20)が初の五輪代表を決めた。石井亜海(21=育英大)に残り10秒を切ってからの劇的な逆転で5-4で勝利。昨年の世界選手権で石井が獲得した日本の出場枠を争う大一番で、パリオリンピック(五輪)代表に内定した。

文武両道で独自の歩みを描くレスラーがパリで頂点を狙う。女子は全6階級の代表が出そろった。

自然に手は伸びた。尾崎の来た道が絶体絶命の窮地で、自身を救ったようだった。「小学校でタックルが武器になってから、考えてやってきて、染み付いてる。自分が試合をしたんじゃない気分」。不思議な感覚だった。

時計は残り9秒89を示していた。得点は3-4。終始優勢も、終盤に背後を許し、1点リードされた。「絶望的だった」。ただ、体は動いた。特技は構えた相手の奥の遠い足に絡み片足タックル。素早く背後に回り、2点を奪って5-4と逆転した時には残り1秒台。試合終了に「おっしゃー!!」。両手を突き上げた。

本来は62キロ級。現役慶大生では64年ぶりの世界選手権出場となった21年大会で、女子初のメダル(銅)。だが、昨年6月の全日本選抜選手権で敗れ、パリ切符がかかる同9月の世界選手権代表を逃した。非五輪階級の65キロ級で優勝したが、ウイニングランでは悲しくて泣いた。直前、62キロ級の元木が代表を決めていた。

希望が生まれたのはその後。68キロ級の石井が5位で出場枠を獲得したが、内定には届かず。可能性が残った。昨年12月の全日本選手権で石井を倒し、優勝でプレーオフにつなげた。

「レスリングだけでなく、その後も考えて」。多くの金メダリストを輩出したJOCエリートアカデミー出身だが、進学先に選んだのは慶大。スポーツ推薦でなく、小論文などのAO入試を利用した。環境情報学部に通い、ゼミではイスラム文化を学ぶ。この日の前日もリポートに追われた。

「野乃香」は春の野の息吹のように、優しい影響力を与える人にと名付けられた。「私の五輪を目指す道、波乱過ぎるなあ」。原点のタックルがつないでくれた道。もうすぐ春。その先にフランスの夏がやってくる。【阿部健吾】

◆尾崎野乃香(おざき・ののか)2003年(平15)3月23日、東京都生まれ。7歳でテレビで見た吉田沙保里に憧れ競技開始。帝京高から慶大へ。女子62キロ級で世界選手権は21年3位、22年優勝。23年杭州アジア大会銀メダル。流行の緑色のエクステンションを編み込んだ髪形は、陸上女子100メートル世界王者リチャードソンを参考。166センチ。