7月に開幕するパリ五輪の競泳日本代表(個人種目)が出そろった。24日まで行われた五輪代表選考会で、男女計19人が13種目で内定。

16年リオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介氏(29)が大会を振り返り、五輪本番までの伸びしろに、自身の経験を交えて期待を込めた。高校2年生で最年少17歳の平井瑞希(ATSC.YW)成田実生(金町SC)をはじめ、松下知之(18=スウィン宇都宮)ら若手の飛躍を願った。【取材・構成=松本航】

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世界10位相当に設定された派遣標準記録突破と2位以内を目指した選考会が、幕を下ろした。五輪を約4カ月後に控えた中での一発勝負。3年前の東京五輪後に現役を引退した萩野氏は開口一番、厳しく言った。

萩野氏 日本新記録ゼロ。全体的なレベルが下がってしまっている点は言わざるを得ない。社会人が振るわない成績の中、高校生など若い選手が代表入りした大会になったと思います。

選考会は従来に比べて1カ月ほど早まり、ピーキングに各陣営が試行錯誤。変則的な2月開催だった世界選手権(ドーハ)には瀬戸大也、本多灯らが志願出場し、海外合宿や国内の調整に充てた選手も多かった。

萩野氏 それぞれで3月開催の捉え方は違う。唯一言えるのは、例えば東京五輪が午前決勝になったように、選手は与えられた環境でやるしかない。「なぜ午前」「なぜ3月」と言い訳はできない。逆に午前決勝でも、3月でも、大会の価値は変わりません。与えられた環境でやりきる力も求められる能力です。

各国のトップ選手が集った昨年夏の世界選手権(福岡)での日本勢は瀬戸、本多の銅メダル2個に終わった。厳しい現実は簡単に打破できないが、自己ベストでパリ切符をつかんだ高校生、大学生の伸びに期待を込めた。

萩野氏 平井選手、成田選手、松下選手、大学生の竹原(秀一)選手…。「五輪が決まって良かった」と目線を下げず、パリでどんなタイムを出すのか、どう泳ぎたいのかを考えてほしいです。

自身も栃木・作新学院高3年の春、12年ロンドン五輪代表に決まった。選考会では400メートル個人メドレーを日本新記録(4分10秒26)で優勝。タイムを見て「五輪メダルを狙えるかも」と、夏へ視線を上げた。本番までの間に出場した欧州の大会では、ロンドン五輪200メートルバタフライで金メダルをつかむルクロス(南アフリカ)らと泳ぐ機会に恵まれた。

萩野氏 自分より速い選手が同じ組にいると簡単には勝てない。それでも「ターンでは追い上げることができた」など、細かい部分に気を懸けました。ただただ一緒に泳ぐのではなく、その経験を糧にしました。

スペインのリゾート地テネリフェ島で行われた合宿では、噴火によってプールが真っ黒になった。非日常の場で先輩と掃除をし、照り付ける太陽の下で猛練習した。

萩野氏 2~3週間して疲れてきたら、パンにハエがたかっていても、食べる時にはらうだけ。アフリカで体力を温存するライオンのようでした。練習後は毎日、諒さん(立石諒、ロンドン五輪200メートル平泳ぎ銅)が「練習どうだった?」と生搾りのオレンジジュースをごちそうしてくれました。先輩の話にヒントはたくさんある。コロナ禍もあり、特に高校生や大学生はシニアの大会や社会人選手との合宿の機会が少なかったはず。だからこそ一気に伸びる可能性があります。

そして迎えたロンドン五輪。萩野氏は400メートル個人メドレーで4分8秒94を出し銅メダルをつかんだ。タイムは選考会からの約3カ月で1秒以上短縮していた。先駆者はエールを送る。

萩野氏 先輩に食らい付き、たくさん経験してほしい。自己ベストを100%とすれば、更新には101~102%の泳ぎが必要。五輪でそれはハードルが高い。ミスして発揮できたのが98~99%でもメダルを取れる、決勝に残れるように地力をつけてほしいです。

 

◆競泳日本代表の今後 3月27日にリレーを含めた代表メンバーが発表され、3月中は都内で1次合宿。選手やコーチの意向も確認し、日本水連は4月に高地の米フラッグスタッフ、準高地の長野・東御での合宿を用意している。5月上旬に2次合宿を予定。実戦機会とし同下旬からの欧州グランプリや、6月のイタリアの大会などへ派遣する方針。7月中旬からフランス・アミアンで直前合宿を行い、五輪は27日から競技開始となる。