雄たけびをあげる選手たちを見ても、まだ信じられない気持ちだった。あのスコットランドを特に前半は「ボコった」。相手がティア1であることさえ忘れさせるように、主導権を握った。攻め続け、走りまくった。スクラムで圧倒し、松島と福岡が世界レベルの走りを見せた。ノックオンなどミスもなく、見事なパス回しから稲垣が決めた。世界に向けて強さを見せつけた日本。桜のジャージーの躍動に胸が熱くなった。

87年の第1回ワールドカップ(W杯)、日本は全敗だった。早明戦を頂点に大学ラグビーはブームだったが、代表に魅力はなかった。選ばれても辞退する選手までいた。日本代表のテストマッチでも、観客席はガラガラだった。

89年にスコットランドに勝った。ブリティッシュ・ライオンズ(英国代表)の遠征で主力9人を欠いた若手主体の相手とはいえ、宿沢監督と平尾主将のチームは可能性を感じたが、続かなかった。2年後のW杯で1勝しただけで、その後は再び低迷。ラグビー人気も落ち込み、サッカーを上回っていたメディアの扱いも激減した。一部のファン以外から「ラグビーW杯」は消えた。

前回大会で南アフリカに勝ち、多くの人がラグビーに注目した。しかし、五郎丸とルーティンが話題になっただけでラグビー人気につながらず、ブームに終わった。だからこそ、今大会はラグビー人気を定着させるために大切だった。

大会前、誰もが難しいと思ったベスト8進出。しかし、選手とスタッフは信じていた。ティア2初の1位突破。それどころか、勝ち点19は全組を通して最多タイ、満点の20に1足りないだけだった。もちろん、ホームの利はある。圧倒的な歓声、レフェリーの笛、それも考えても日本は強い。

ラグビーは「伝統」を守り、それに縛られてきた。初めて「伝統国」以外でW杯を行ったのは、世界のラグビー界が「伝統」を捨てて広がりを求めたから。日本のような「非伝統国」の躍進がラグビーの価値観を変え、世界的な普及にもつながる。上位進出の顔ぶれが毎回同じでは、大会は硬直するだけ。日本が勝ち進むことで、国内だけでなく世界のラグビー界の将来も明るくなる。【荻島弘一】