日本がイングランドの壁に阻まれた。過去10戦全敗、前回準優勝の難敵から初勝利を狙ったが、12-34で敗戦。現地で見守った15年W杯コーチの沢木敬介氏(48=横浜キヤノンイーグルス監督)は前後半80分を4分割し、日本の進化、イングランドとの違いをひもといた。

今後は28日(日本時間29日)にサモア戦(トゥールーズ)、10月8日にアルゼンチン戦(ナント)に臨む。1次リーグ突破は上位2チーム。「日本のラグビーをすれば、サモアから(4トライ以上で)勝ち点5を取れる」と期待を込めた。【取材・構成=松本航】

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フィジカル、FW戦、キックを起点とした圧力-。戦前の予想通り、イングランドは伝統の戦いを貫いてきた。前半を9-13で折り返し、後半に引き離された一戦。相手の理想に対し、沢木氏は「ズレは生じさせられていた」と日本の戦いはできたと見た。その上で勝敗を分けた点を分析した。

<開始から前半20分まで>

開始早々、ミスから自陣での防御が続いた。4分に相手SOフォードのPGで先制を許し、3分後にFBマシレワが負傷交代。プラン変更を余儀なくされた。

沢木氏 首脳陣が(マシレワが)ケガをするリスクを考えながら使っていたのか状況は分からないが、代わって入ったレメキは非常にいい仕事をした。マシレワ負傷の影響を感じさせなかった。

昨年11月の対戦で開始から3本連続の反則を犯したスクラムが安定。15分、連続攻撃で得たPGをSO松田が決めて追いついた。

沢木氏 何と言ってもスクラム。イングランドの圧力に耐えられていた。長谷川慎コーチ仕込みで8人が固まり、完璧だった。攻撃でもボールを持って前進できていた。相手に「ちょっとおかしいな」と思わせる展開に持ち込めていた。

<前半終了まで>

23分に松田が2本目のPGを決め、6-3と逆転。1分後にトライとゴールで6-10とされたが、相手もかみ合わない。30分にはSOフォードがPGを失敗。32分にはレメキがキック後に反則をもらい、松田のPGで1点差に迫った。

沢木氏 いい形で来ていたからこそ、前半最後の1つの反則がいらなかった。

1点を追う40分、安定するスクラムから自陣の窮地を脱出。残りワンプレーは中盤ラインアウトからの相手攻撃だった。4度目の防御時、松田が正当な位置に戻れずにタックルをし、これがオフサイド。防御の整備、素早い出足を心がけてきた中、痛恨のPGで3失点した。

沢木氏 メンタルのダメージが残る。反則なしで最後のプレーを終えることは、リーダー陣を中心に確認していたと思う。だが、やってしまった。ゲームナレッジ(試合における理解度)の部分。イングランドに誘発された反則でなく、自分たちでやった。個人のナレッジの部分ともいえる。

<後半開始から20分まで>

4点ビハインド。1分にロックのファカタバがライン際を走る相手をタックルで押し出し、最初の得点を許さない。14分に松田のPGで12-13と1点差。16分には相手の一連の攻撃で、パスが頭に当たった(※注)。こぼれ球をフランカーのローズに拾われ、トライとゴールで12-20の8点差。最後の20分へ射程圏内の差が勝利への期待を生んだ。

沢木氏 あれはアンラッキーなトライ。(ヘディングの前に別の選手が)最初に触っていた時の角度で、レフェリーによってはノックオンを取ると思う。早い時間帯でPGやトライを決められれば、1プレーで逆転できる点差。ここまでは日本の展開だった。

<後半終了まで>

日本は22分にフッカー堀江、ロックのファカタバを交代。これでFW前5人のうち4人が先発から入れ替わった。一方イングランドも20分、経験豊富なプロップのゲンジらを投入。登録23人の総合力が問われた。27分、自陣ゴール前のスクラムで日本は後退。イングランドは主審のアドバンテージを確認した上で、ミスができる攻めで相手SOフォードが技ありのキックパス。これを受けたFBスチュワードの左隅へのトライが勝利を決定付けた。

沢木氏 見ていて「よっしゃ!」と思うほど前半から崩れなかったスクラムが後退した。ここまではスクラムが安定するから、日本のやりたいことができた。ただ、10回のうち9回はいい形が組めていても、そのうちの1回が勝敗を決めてしまうのがラグビー。「誰かが悪い」ではなく、80分間続けることができなかった。

<サモア戦に向けて>

1次リーグD組はイングランドが2連勝で頭一つ抜けた。日本の次戦は中10日。サモア、アルゼンチンとの2位争いに向けても勝利の勝ち点4に加え、4トライ以上でのボーナスポイントの1点がほしい。

沢木氏 サモアは初戦チリ戦を見ても、ちぐはぐ感がある。時間があるので、まずは心身をリフレッシュする。スクラムを含めて、やってきたことを出す。日本の早い展開に持ち込めば勝ち点5を取れると思う。

(※注)自陣深くで相手SOフォードのパスをFWスチュアートがこぼし、FWマーラーへ。頭に当たって前方に転がった瞬間、日本はノックオンと判断したのか足を止めた。一方のイングランドは主将ローズが拾ってインゴールへ。ビデオ判定の結果、最初の落球は「後方」で、最後に触れたのは「頭」として主審がトライを認めた。競技規則では「手または腕」から離れたボールを地面に落とすとノックオンで頭は適用外。

【動画】史上最も変わったトライ?イングランド-日本戦での“ヘディングアシスト”