日本相撲協会で八百長問題の実態解明に当たる特別調査委員会と、現役の親方や力士との攻防の一端が判明した。十両安壮富士(35=伊勢ケ浜)が5日、調査委から2度目の事情聴取を受けていたことと、その席上での詳しいやりとりを明かし「強引な手法だ」と批判した。一方、ある調査委メンバーは、より多くの証言を得るための一手段と強調。問題が長期化する一因をのぞかせた。

 前日4日に特別調査委の伊藤滋座長が「グレーはいっぱいいる。ウン十人」と発言した、新たな疑惑力士の名前が浮上した。疑惑が持たれていた従来の14人の他にこの日、調査委が安壮富士ら20~30人に対して複数回の聞き取り調査を行っていることが、新たに分かった。安壮富士は都内の部屋で、八百長への関与を完全否定した。さらに強引ともいえる手法に、調査委への不信感を示した。

 安壮富士

 (疑惑を持たれたことは)意味が分からない。頭ごなしに「(八百長を)してますよね」「認めてください」と言われた。やってもいないのに、そんなことを言われても困る。

 事情聴取は全関取を対象に行われ、安壮富士は1回目の聴取で携帯電話や預金通帳を提示していた。最近になって2度目が行われ、その場でのやりとりだという。理由や証拠を示されたわけではなく、一方的に決め付けて聴取に臨む調査委側の態度を批判した。

 安壮富士は、元幕内若ノ鵬が八百長をした相手として、週刊誌上で名前を挙げた21人のうちの1人。調査委は「新聞、週刊誌の報道なども基礎資料としております」と説明している。一方、この日判明した強気の調査手法を取った裏には、他の力士らから関与の証言があったとも考えられる。

 ある調査委のメンバーは「メールのような確固たる証拠がない以上、より多くの証言を積み重ねる必要がある。『やっていない』という言葉を全部信用していては、調査委がいる意味がない。人間心理だから強く言ったり、やさしく言ったりする中で、何か変化があるかもしれないので」と、安壮富士への対応は、駆け引きの1つと説明した。

 調査委が今後、さらに事情聴取を重ねる可能性はある。安壮富士は「呼ばれたら行きますよ、何度でも」と、憤りを隠しながら話した。明確な証拠がない中での聴取は困難を極めているといえる。調査委は11、18日に会合を開くが、本場所再開の道のりの険しさが露呈された。