ライバル-。どこの社会にも必ず存在する好敵手である。これまでプロ野球界で数多く目にしてきたが、間近で見たのは故・村山実さん-長嶋茂雄終身名誉監督との対決。「あのひとには絶対打たれたくない」と闘志をむき出しにして向かっていった。極め付けは後楽園球場で行われた天覧試合で打たれたサヨナラホームラン。おそらく、いまだにあの世でも「あれは絶対ファール」と言い張っていることでしょう。江夏豊氏-王貞治会長の対決も「記録の三振は王さんから」と有言実行したのは有名な話。掛布雅之2軍監督-江川卓氏の対決も迫力があった。何か、ゲーム展開以上の雰囲気をかもし出していたものだ。

 ライバル意識は技術の向上を生む。伝統の一戦(阪神-巨人)で目のあたりにした球界を代表する対決を思い出してみたが、6月26日、甲子園球場で行われたウエスタン・リーグ公式戦で、将来のライバルとして投手戦を繰り広げれであろう2人のピッチングが拝見できた。私の目に狂いがあるかどうかは別にして、同郷で同学年となると、皆さん信じられないだろうが普段は仲がいいはずなのに、こと“勝負”となると「あいつには負けたくない」の闘争心が頭をもたげる。プロ野球界ではよくあるケースで、特に同期となると意識過剰になる。

 阪神-中日戦だ。緊迫した投手戦を予想した。注目のマウンドは高卒ルーキーの両投手である。中日の先発は昨夏の甲子園球場における高校野球の全国大会で優勝、東海大相模からドラフト1位で入団した小笠原慎之介投手(18)すでに1軍でも登板している将来のエース候補、対する阪神の先発は横浜創学館からドラフト4位で入団した望月惇志投手(18)両投手神奈川出身、アマチュア時代の実績ではかなり差をつけられていたが、150キロ台の速球を武器にメキメキ頭角を現してきた。この世界に入って半年。評価はうなぎ上り。金本監督が期待するエース候補の素材の持ち主。

 マウンド上でのプレートさばきは、やはり数々の修羅場をくぐってきた小笠原に一日の長を感じたが、望月の若者らしい生きのいいピッチングも負けてはいない。ライバル小笠原は「中学時代から戦っているらしいが、あまり記憶にありません。名前もよくは知りません」とあまり意に介していないようだが、望月は、去年の入団会見から「小笠原には負けたくない」と闘争心をあらわににしていただけに「残念です」は正直な気持ちだろう。

 ライバル対決は今後も続くが、両投手の現状を両チームのコーチに聞いてみた。中日高山チーフ投手コーチは「今日の調子はまあまあですかねえ。それよりあんな守備をしていたらダメですよ。イージーゴロを後ろへそらすなんて…」と信じられない表情。確かにピッチャーも投げ終わったら9人目の野手であることを忘れてはならない。阪神・久保ピッチングコーチ「野手のエラーはあったが、あのようなピンチで相手が勢いに乗ってきているときにまともに勝負して打たれた。ああいうのが今後の課題でしょう」だったが、1イニングで3失策。この日のピッチングを評価するのは気の毒だ。

 今回の対決は1、2軍を通じてプロ入り初勝利をあげた小笠原に軍配は上がった。「今日の内容の中で自分で一番納得しているのは、この世界にはいって一番長いイニング(6回3分の1)を投げられたことです。調子はまあまあでしたが、今後はもっと、もっとイニングを伸ばしていきたいです」が小笠原なら、望月は「勝ちたかったですね。残念です。調子はそれほどいいとは思いませんでしたが、今度上(1軍)で対戦したときには、必ずこの借りはお返しします」と前向きの答え。

 ライバル対決といっても、現状では本人達の気持ちの中にライバル意識はあったとしても、まだ冒頭で明記したようなファンが生唾を飲んで見守るだけの実力が伴った試合にはなっていない。さらなる技術の向上を目指せる。もっと、もっとライバル意識を強く持つことが力をつけてくれる。私が望むのはファンを魅了できるライバルになることだ。