“師匠”にささげる1発だ。楽天嶋基宏捕手(30)がオリックス戦で先制となる今季1号のソロ本塁打を放った。キャプテンの一振りでチームは勢いに乗り、今季初の3連勝。小雨が降り続く悪天候の中、口火を切った。この日、副キャプテンである小山伸一郎投手(36)が手術を受けることを球団が発表。長年バッテリーを組み、公私ともに仲が良い先輩の復帰を祈る1発となった。

 祈りの一撃は代名詞の右打ちだった。2回1死走者なし。嶋の打球が雨粒を切り裂いた。オリックス・ディクソンの内角寄り143キロの直球を思い切り振りぬいた。真芯で捉えた打球はグンと加速し、オリックスファンの悲鳴とともに右翼スタンドへ突き刺さった。うれしい今季1号に「久しぶりにダイヤモンドを1周しました。気持ちよかったです!」と全力でベースを走り抜けた。

 勝ちたい理由があった。この日、副キャプテンの小山伸の手術が発表された。自主トレをともに行い、時には「師匠」と呼ぶ相手。「小山さんがいないと盛り上がらない」と話すほど信頼を置いている。試合後には「僕が入ってからずっと、良い時も悪い時も一緒だった。もう1回元気な姿でチームに戻ってきてもらって、その時はバッテリーを組みたい」と、しんみりと語った。回復を願う気持ちがバットに乗った。

 先制の1発はチームの空気をも変えた。直前に藤田がチームで今季初めて盗塁を失敗。嫌な流れを振り払った。田代打撃コーチは「体の軸に巻き付くように打つから、ボールが長く見られて、しっかりインパクトできる」と評価する。昨年は試合中にバットを折った回数は10回以下。芯で捉える技術がうまいからこそ、時には粘り、時には大きな1発が生まれる。

 チームは3連勝で借金を1に減らした。嶋は「1つずつ勝っていかないと」と気は緩めない。“師匠”が帰ってくるまで、そしてチームを勝利に導き続けるために、扇の要で仲間を鼓舞し続ける。【島根純】