全身で思いを体現した。阪神のルーキー江越大賀外野手(22)が2試合連続打点で、特別な夜の勝利に貢献した。3点リードの3回2死一、二塁。広島薮田の149キロ直球に振り負けず、ハーフライナーを左前へと落とした。

 「詰まった打球でしたが、なんとかランナーをかえすことができて良かったです」

 どよめきはその直後だった。二塁走者マートンの生還を確信しても、江越の色気は収まらない。一塁をオーバーランすると、まずはストップ。左翼ロサリオがゆっくりと内野へ返球するのを見るや、いきなりギアを入れて二塁を陥れた。鮮やかな「レフト前適時二塁打」が、主導権を握るキーポイントになった。打つだけではない、全力プレーが際立った。

 この日の午前8時15分。広島へ原爆が投下された時刻に、江越は静かに目を閉じた。広島と同じく被爆した長崎出身で、小さいころから8月9日が夏休み中の登校日だった。学校では集会が開かれ、悲しい歴史を学んだ。ピースナイターへは特別な思いがあった。「70年だからとか、そういうのはないです。毎年この時期になると、野球ができることに感謝しないといけないと思う。(黙とうは)できるときはやっています」。心を静めて平和を願い、グラウンドでは環境への感謝を見せたかった。

 大勝で終えた節目の日。低めの変化球を見極めた上での適時二塁打に、少し成長も感じた。「そこは常に意識しているので、もっと高めていきたいです」。7日からのDeNA3連戦中には、8月9日がやってくる。まだ、スイッチは切れない。【松本航】