抜てきに応えた。「1番・中堅」で先発したヤクルト比屋根渉外野手(28)が、切り込み隊長になった。1回、右前二塁打を放つと、先制のホームを踏んだ。2回には3点目の適時打も放ち、強烈な先制パンチを巨人に浴びせた。「こんな自分を使ってもらって感謝です。野球人生のいい思い出ができました」と、大事な試合で活躍できた喜びをかみしめた。

 ホワイトボードでスタメンに自分の名前を確認してから、緊張が襲ってきた。先発出場は9月20日以来。1回表、守備に就いても足の震えが止まらなかった。「外野フライのカバリングに全力で走りました。とりあえず走れば震えが収まるかなって思って」。その効果か、第1打席から最高の結果を出せた。

 ユニホームから金色のネックレスが見え隠れする。10年前、20歳の若さでバイクの事故で亡くなった兄要(もとむ)さんの形見だ。「俺が野球を始めた時、一番指導してくれたのは兄貴。だから外せないんです」。縁起が良くないと思ったのか、最初は身につけるのを両親に反対された。それでも、比屋根はつけ続けた。成人式を終えた頃、両親も何も言わなくなった。以来、兄の魂とともに戦い続けてきた。

 だから比屋根は手を抜かない。8月から調子を落とし、スタメンを外れても、しっかり準備だけはしてきた。川端から「遅い球を打つ練習を取り入れたら」と勧められ、一緒に打ちこんだ。おかげで絶好調でこの日を迎えた。そしてチームを日本シリーズに導く活躍ができた。スタンドからは、比屋根コールの大合唱が降り注いだ。気持ち良さそうに、すべてを受け止めた。【竹内智信】