北海道の無名校から初のプロ野球選手が誕生する。プロ野球ドラフト会議が20日、東京都内で行われ、最速154キロ左腕の江陵・古谷優人投手(3年)がソフトバンクに2位で指名された。今季高校生左腕最速を誇るも、甲子園出場歴はなく全国とは無縁。幕別町で育ったエースが描くサクセス物語の新たな章が始まる。

 きりっとした目でテレビ画面を見つめる古谷の目に自分の名前が飛び込んだ。目頭を熱くした谷本献悟監督(36)と2度握手をかわすと「絶対泣くと思ってました」といたずらっぽい表情を見せた。昨年まで2年連続日本一のソフトバンクからの指名。「プロ野球界でも強いチームに指名してもらえてうれしい」。新たなステージでの自分の姿に思いをはせた。

 サッカー好きだった少年の野球人生が始まったのは、小学3年。社会人野球でプレーする友人の父親とキャッチボールをした時だった。きちんと野球ボールに触るのが初めてにもかかわらず、投げっぷりの良さに「絶対に野球をやらせた方がいい」と勧められた。

 無名だった中学時代からめまぐるしい勢いで成長を遂げた。幕別札内中では2年秋から背番号1を背負うも「決勝とか大事な試合は自分じゃなかった」と実質2番手。生活面も少し荒れた。長期休暇に明るく染髪したこともあった。甲子園出場経験のないチームでは1年春から主戦を任されてんぐになった。勝利にこだわるあまり、チームメートにきつい言い方をして孤立したこともあった。それでも2年秋からエースと主将の2役を任され、どんなに怒られても「こんな自分に怒鳴ってくれた」と受け止められるほど、変わった。「鍛えられたのは人間力」。甲子園には行けなかった。だが「江陵に来られたから、こうなれた」と晴れやかに言う。プロ入りをたぐり寄せた今夏の154キロは練習の成果だけでは出ないと確信している。

 妹のために続けた好投が夢をかなえた。「家族で一番応援してくれた」という妹みりあちゃん(9)は体に障害がある。いつも球場に足を運んで応援する姿が原動力だった。「支えてもらった人たちに活躍しているところを見せたい」。投手に目もくれず、好きな選手に挙げる松田のチームで始まるプロ野球人生。幕別町から日本のトップへ飛躍する。【保坂果那】