<日本ハム4-2ソフトバンク>◇19日◇札幌ドーム

 がばい苦労人の涙、涙のアーチが舞った。日本ハム佐藤吉宏外野手(24)が、プロ初安打初本塁打で連勝をもたらした。ソフトバンク戦の2回1死一塁、右翼へ先制の1号2ランを放った。プロ3打席目、本拠地初打席で大仕事を成し遂げた。野手に故障者が続出し、15日にプロ7年目で初めて1軍に昇格。巡ってきたチャンスを生かし、お立ち台で涙した。佐賀生まれの遅咲きのスラッガーが、チームに力を吹き込んだ。

 唇が震えた。佐藤は、ちょっとだけ上を向いた。こぼれ落ちそうなものをこらえた。あふれる思いは、お立ち台での力強い言葉に凝縮されていた。「今まで皆さんに支えられて、たくさん応援してもらって。見捨てないで使ってもらって感謝しています」。すぐに言い直すようにボリュームを上げ、はっきりともう1度、同じフレーズを口にした。「感謝しています…」。

 7年目で描いた野球人生の軌跡のような、真っすぐな放物線だった。01年ドラフト4位で入団。高校通算40発の左のパワーヒッター。背番号は55。「佐賀のゴジラ」の看板をひっさげプロ入りしたが、現実は厳しかった。1年目は2軍の雑用係。遠征では毎試合、2軍マネジャーとともに、ワンボックスカーで球場へ先乗りした。「戦力外」のメンバーだった。同期の選手たちの洗濯物集め、用具整理の日々。首脳陣ミーティングで、名前を挙げられることもなかった。性格は自己分析で「まじめです」。そこを頼りに、この日までやってきた。

 見ているだけだった夢は、現実になった。「高卒で6年間も…。温かい球団だな、と思った。契約してもらえたら1年間、頑張ろうと」。2回1死一塁。ほぼ真ん中の142キロを、右翼ポール際へ突き刺した。先制2ラン。終わってみれば、連勝を派手に彩る決勝打になった。プロ3打席目での初安打は、胸に秘めていたチームへの恩返しの1発になった。「今までテレビで見るだけだった」という本拠地初打席。自力で、感動ドラマをつむいだ。

 外野のレギュラーが厳しいと判断され、一時は一塁手へ本格挑戦も、ゴロもフライも捕れなかった。近年、オフは戦力外通告の危機を常に感じていた。「なったらしょうがないな、と」。球団は野球への取り組む姿勢も評価し、開花するのをじっと待ってきた。故障者続出で巡ってきた舞台で、花は咲いた。

 プロ1年目。2軍で初安打を放った。後片付けをし、チームよりも遅れて、ワンボックスカーで東京ドームを離れた。鎌ケ谷へと向かう道中。裏方さんと一緒にコンビニで、ソフトドリンクを購入した。ささやかなお祝い、乾杯をしたという。あれから6年。「何も覚えていない」。描くことができなかったもう1つのスタートラインに、しっかり立った。【高山通史】