<ヤクルト1-4横浜>◇2日◇神宮

 16年ぶりの日本勝利にも感慨はなかった。12年ぶりに日本復帰した横浜大家友和投手(34)が復帰初登板を白星で飾った。横浜でのプロ1年目、1994年4月29日以来、日本では2度目の「初勝利」。巧みな投球術でヤクルト打線を7回途中まで6安打1失点に抑える好投。メジャー通算51勝の「技」が、チームにとって大きな力となる。

 マウンドを降りた大家をベンチの全員が笑顔で出迎えた。ヒーローからも白い歯がこぼれていた。最後は尾花監督とハイタッチ。6回1/3を90球。武内のソロ本塁打による1失点でしのいだ。「最初にしては良かったと思ってくれたんでしょう。すごく良かったという感じではない」。感情を押し殺しながらも、表情には満足感が漂っていた。

 直球の最速は144キロ。抜群に速いわけではない。持ち味の動くボールで翻弄(ほんろう)した。「緊張した」という1回を乗り越えると、あとはテンポ良く投げるだけ。ときには110キロ台のスローカーブを効果的に使い、打者のタイミングを外した。捕手の武山が「慣れるまでは捕るのが大変」と言うのだから、14年ぶり対戦のヤクルト宮本が「まともなボールがなかった。回転がぐちゃぐちゃ」とぼやくのも当然。90球で空振りはわずか2球。バットの芯を外す老練の投球術で、要所を内野ゴロとポップフライで切り抜けた。

 3月、メキシコリーグのキンタナローを自由契約になった。獲得に動いた古巣の誘いに「元いたチームに帰れるのは野球選手として幸せ」と復帰を決断。不安がなかったはずはないが「自信がなければプロ野球選手をやめなくてはいけない」と強気だった。メジャーとのボールやマウンドの違いについても「そういうものは言い訳にしたくない」とプライドをのぞかせた。華やかな舞台だけではない。マイナーの苦しさも経験し、最後はメキシコにまで渡った。「少しぐらい悪い環境でも野球をやってきた」という雑草の強さを復帰戦で証明した。

 地元・京都の桜を見て、日本に復帰した喜びを実感した。スタンドにはその京都から母千恵子さん(60)も駆けつけた。「前に勝ったときとは内容も違う。メジャーはまったく別物だし、自分自身は新人選手だと思っている。何日ぶりという記録は明日の新聞を見て、そうなんだと思います」。支えてくれた人へ贈る1勝。わずか1勝で海を渡り、メジャーで51勝を積み上げた34歳は、日本で2度目となる初勝利を、静かにかみしめた。【鈴木良一】

 [2010年5月3日9時53分

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