<阪神5-4ヤクルト>◇30日◇甲子園

 絶体絶命から無傷で生還した阪神3年目歳内宏明投手(21)が、うれしいプロ1勝を手にした。4回、2点差とされ、なお無死満塁。2番手で投入された21歳右腕は、2三振を奪うなど3人斬り。追加点を阻止し、その裏の逆転劇を呼び込んだ。プロ通算10試合目、11年ドラフト2位が新風を吹き込み、チームの連敗は3でストップ。暑い夜がアツくなった。

 1点差で逃げ切ると、阪神歳内から笑みがこぼれた。プロ初勝利-。投じたのは、わずか11球。だが、試合の流れを大きく変えたマウンドだった。

 「実感がないです。全然気づかなかったです。榎田さんだと思っていました。(勝ち投手だと聞いて)うれしかったです」

 出番は4回。2点差に広がり、なお無死満塁。まず石山を見逃し三振。続く1番山田は、聖光学院2年の時、夏の甲子園の履正社戦で2ランをくらっていた。「高校の時に甲子園で打たれていたので。ただ今日は思い切って投げられました」。カウント2-2からの6球目。外角低めに決め球のフォークが鋭く落ち、空振り三振に斬った。グラブを思い切りたたいて感情をあらわにすると、続く森岡も二ゴロに打ち取り、無失点で切り抜けた。

 3年目。たくさんの転機があった。結婚もし、4月に長女が誕生。一家の大黒柱になった。正月、中学時代に在籍した宝塚ボーイズ奥村幸治監督(42)に年賀状を送った。「(田中)将大さんと差がありすぎて自分が情けないです」。そうしたためた。

 ヤンキース田中は、宝塚ボーイズの5つ先輩。走り続ける背中をずっと追い続けてきた。田中は楽天でプロ1年目から1軍のマウンドに立ち昨年、日本一に。日本球界を代表する投手として今年から大リーグに挑戦。先輩がどんどん先を進む姿を見て、自分にむちを打った。

 高校時代は聖地甲子園を沸かせ、期待を背負ってドラフト2位で入団。だが、結果を出せずに2軍生活が長く続いた。今季、2度の先発のチャンスを与えられたが、白星にはつなげられなかった。再び1軍のチャンスが巡ってきたのは、中継ぎ。27日広島戦で出場選手登録され、即登板した。「中継ぎの経験はあまりないけど、あのとき経験できたのは大きかった」。慣れないリリーフも落ち着いて打者と向き合えた。

 「支えてくれた人は数え切れない。1人ではここまでこれなかった。感謝しきれない。自分の仕事をしているところを見せたい」

 チームの連敗を3で止めたプロ1勝。たくさんのパワーを胸に、21歳右腕の恩返しが始まる。【宮崎えり子】

 ◆歳内宏明(さいうち・ひろあき)1993年(平5)7月19日、兵庫県生まれ。聖光学院では2年夏の甲子園で広陵、履正社を破り8強入り。3年夏は日南学園、金沢との2試合で30奪三振。11年ドラフト2位で阪神入り。12年9月2日広島戦(甲子園)でプロ初登板初先発(勝敗つかず)。試合前までプロ通算9試合に登板し0勝1敗、防御率5・57。184センチ、81キロ。右投げ右打ち。