<ヤクルト7-3中日>◇3日◇神宮

 痛恨の逆転負けに若竜が一筋の光をともした。中日2年目の若き大砲候補古本武尊外野手(23)が、プロ初打席を初安打で飾った。3点を追う7回1死で代打登場。2球空振り後、外角低めに沈む松岡のシュートに食らいつき、遊撃森岡のグラブをはじいた。「1本出てよかった。やっと1歩踏み出せました」。戻ってきた記念球をバッグにしまった両目は、少し潤んでいた。

 プロ入り前から苦難の道のりだった。龍谷大4年時。12年春の大学選手権で首位打者を獲得した主砲は、8月のバント練習で左目に自打球を当てて眼窩(がんか)底を骨折。網膜剥離手術を受ける大ケガで、最後の秋季リーグ戦は出られなかった。「何も見えなかった。もう野球はできないと…」。それでも中日は回復の可能性にかけ、ドラフト3位で指名した。

 野球選手にとって目の故障は致命的だ。1年目の昨年6月には外傷性白内障を発症し、再びメスを入れた。だがボールはかすんでも、1軍で活躍する目標はかすまなかった。長いリハビリに耐え、特殊サングラスなどの力も借り、視力は関係者も「奇跡的」と驚く1・5まで回復した。「諦めかけたところから多くの方に支えてもらってここまできた。野球ができる喜び、感謝を伝えたい」。今季2軍で7本塁打を放ち、2日に初昇格した23歳が気迫でともした「H」ランプだった。

 その直前には、同じく代打で3年目20歳の高橋周が昨季に並ぶ5号ソロを左中間に運んだ。しかも3本が代打弾の勝負強さ。こちらも2年間苦しんだが、「左股関節に乗せた体重をボールに伝えられている」とフォームが固まり、上り調子だ。

 将来の中軸が期待される2人の代打競演は敗戦の中の救い。今日にもダブルスタメンの可能性もある。楽しみはまだある。【松井清員】

 ◆古本武尊(ふるもと・たける)1990年(平2)12月4日、福岡県生まれ。福岡大大濠-龍谷大を経て、12年ドラフト3位で中日入団。強打に定評も、昨年6月に外傷性白内障の手術を受けるなど故障に泣く。今季ウエスタン・リーグ66試合、7本塁打、34打点、打率2割3分1厘。176センチ、87キロ。右投げ左打ち。