<大相撲春場所>◇10日目◇17日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 白鵬の独走態勢で、盛り上がりに欠ける10日目の土俵。同じ土俵でちょうど四半世紀前、その快挙が世界に打電される偉業が達成された。90年3月17日、春場所7日目。横綱千代の富士(現九重親方)が前人未到の通算1000勝に到達。翌18日付の日刊スポーツは7ページを割いて詳報した。

 元小結大潮が持つ通算最多勝利記録(964勝)を「横綱が更新して当然。元気も良かったから次は1000勝と。1勝1勝の積み重ね、小さなステップを重ねた結果だ」と九重親方。「次の目標は」に「1001勝」の名言を残した。

 忘れられない夜がある。大鵬を超える46連勝を記録した88年11月の九州場所。夜の街で出くわした大鵬親方からかけられた「これで終わるんじゃないよ」の言葉。超えられてなお泰然とした姿に、自分が逆の立場になった時は「この気持ちを誰かに返さないといけないと思った」と振り返る。

 通算最多勝利記録を大関魁皇(現浅香山親方)に抜かれた11年7月。九重親方は最大級の賛辞を贈った。「横綱の地位に誇りを持って抜かれはしたけど、相撲界が盛り上がるのは良いことだからね」。リップサービスで話題を提供する横綱でもあった。「真綿で自分の首を絞めたり、今の力士は売り込むのが下手。今がチャンスなのに」。隆盛の時代を知る分、歯がゆい思いもしている。【渡辺佳彦】