春巡業が始まった。相撲人気が回復し、今年は冬まで全国60カ所以上で巡業が開催される。各地ファンとの出会いや、おいしい食べ物を味わえる巡業は楽しい面もあるが、移動は大変だ。3月29日の三重・伊勢神宮から、翌日会場の兵庫・南あわじ市に向かった際は、渋滞に巻き込まれたため、6時間近くの移動となった。尾車巡業部長(57=元大関琴風)も「利益が上がれば、巡業用に力士専用バスを用意したいくらいだよ」と話すくらい、過酷な一面もある。
我々報道陣にとって巡業は、各力士の素顔に迫れる貴重な時間でもあるが、最近は尾車部長の話を聞くのもひとつの楽しみだ。かつて、NHKサンデースポーツの解説も務めた同部長は、口も滑らかで取材にも分かりやすく応じてくれる。
尾車部長は、12年4月の福井巡業中に会場内で転倒し首を強打。頸髄(けいずい)の損傷で緊急入院し、手術が施された。一時は首から下が麻痺(まひ)する状態だったが、懸命のリハビリで13年春巡業から職務に復帰。今でも杖(つえ)が必要だが、朝稽古では常に土俵下のイスに座り、力士を見守っている。
最近は、場所間の疲れを取ることを重視して巡業で激しい稽古をする関取衆も少なくなった。確かに長い距離の移動は厳しいが、尾車部長は「この巡業が大事なんだよ」と力を込める。
「番付発表までにしっかりやらなきゃだめなんだ。番付発表が終わってからが調整なんだ。巡業でたくさんの人に見てもらって稽古すると、気が入るんだよ。モチベーションも上がる。格好の場なんだ。幕下力士は十両とやればいいし、十両は幕内の関取衆とやればいい。やんなきゃだめだよ」。
各地方の子供たちの目に「本物」を焼き付けさせるためにも、巡業の稽古は意味がある。「僕もだけど、昔は巡業の関取衆を見て、あこがれて入門した人も多かったんだ」と尾車部長。角界発展へ、巡業回数が増える今年は好機になる。全国各地で、熱い稽古を期待したい。【木村有三】


