東前頭3枚目の遠藤(26=追手風)が、5度目の対戦で初めて横綱白鵬を倒した。立ち合いから一気の攻めで、完勝の寄り切り。14年夏場所で横綱鶴竜を倒して以来、2年半ぶりに2個目の金星を獲得した。これで1横綱3大関撃破となった。白鵬が平幕力士に寄り切られるのは横綱になった07年名古屋場所以降、連勝を63で止められた10年九州場所の稀勢の里戦に続いて2度目だった。

 観客が立っていた。それだけの衝撃を与えていた。拍手と喝采が鳴りやむことなく背中に飛び交う。結びの一番。最後まで土俵に残ったのは最強横綱の白鵬ではなかった。遠藤だった。

 最高の相撲だった。立ち合い、右の張り差しが飛んできたが「しっかり踏み込むことを考えていた。張り手が来たなと思ったけど、ひるまず前に出ようと思っていた」。けんか四つの横綱を左を固めてはじくと、すぐさま自らの左を差して押し込む。速さで勝った。瞬間「ガムシャラに前に出るしかないなと思った」。

 腰を落として残そうとする横綱に休まず寄った。足で懸命に砂をかき、白鵬をあきらめさせた。平幕が横綱白鵬を寄り切るのは連勝を63で止めた稀勢の里以来2度目。ただ、当時は19秒。今回は衝撃の4秒だった。

 2年半ぶり2個目の金星。何よりも5度目の挑戦で初めて白鵬を倒した。「うれしいです。そういう(金星の)日を迎えられるように耐えてきた」と、目を閉じながら言った。ただ「割と平常心でいられている」とも話した。笑みを少し見せたのは、引き揚げる花道だけ。それが遠藤だった。

 師匠の追手風親方(元前頭大翔山)は言う。「以前はアスリートだった」。24時間、相撲のことを考えるストイックな生活。体重が140キロ台で推移する時期は筋力で増やそうとした。

 そこを、師匠は諭した。「正解は遠藤の方だと思う。でも、夜中の2、3時に焼き肉を腹いっぱい食うのがお相撲さん。お相撲さんはアスリートではなく勝負師。アスリートは勝負師に負ける。あるときは遊び、あるときは勝負する。バランス良くやるのがいい」。

 この言葉を聞いて遠藤は真夜中に焼き肉、夜食にラーメンを食べ出した。150キロの壁を突破し重みがついた体が、昨年春場所の左膝と1年前の右足首のけがを補ってくれた。親方は「状態はけが前の7割。ただ、けがからの2年間でプラスアルファはたくさんある」。力は当時を上回った。

 7日目は、ただ1人全勝の横綱鶴竜と対戦する。「これに満足せずに、もっと前を見てやっていきたい」。主役が似合う男になってきた。【今村健人】