パステルカラーのドレスは色あせているが、自然光に当たると美しい。そんな淡色の映像から女の怖さ、男の愚かさがにじみ出る。

 「マリー・アントワネット」(06年)「ブリングリング」(13年)…作品ごとに独自の視点で時代を切り取ってきたソフィア・コッポラ監督が心理サスペンスに初挑戦した。

 「ビガイルド」(23日公開)は南北戦争時代を舞台にしたトーマス・カリナンの小説が原作。過去には、ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演の「白い肌の異常な夜」(71年)として映画化されている。今回はソフィア監督が年かさの学園長マーサ(ニコール・キッドマン)に自らを重ね、女性視点に軸足を置いた作品になった。

 舞台となるバージニア州は米東部、南北で言えばちょうど真ん中に位置する。3年目に差し掛かった南北戦争で南部連邦に属する同州は激戦地である。

 だが、2人の教師と5人の生徒が残った女子寄宿学園は広大な森に囲まれ、時折遠くに聞こえる大砲の音を除けば平穏に包まれている。ある日、キノコ狩りをしていた年少の生徒が負傷した北軍兵士マクバニー(コリン・ファレル)を発見する。

 彼女たちはキリストの教えに従い、傷を手当てし、かくまう。7人の世代は幼女から年長の学園長まで幅広い。1人の男の闖入(ちんにゅう)に世代ごとの「女」が頭をもたげる。最初は好奇心剥き出しの年少組のざわつきが目立ち、回復に従って内から男性らしさが匂いだすと年長組のときめきが上回る。学園長世代のソフィア監督が実体験を振り返って描く世代ごとの心理描写。きめ細かさに説得力がある。

 やがては女性間に嫉妬が芽生え、好青年に見えた男の欲望もあらわになる。そして愛憎絡みの「事件」が起こって…。

 戦地から、夢のような環境を得たはずが自らそれを失うような行動に出る男の愚かさ、そして恐ろしくも「平和的」な女たちの解決法とは。冒頭シーンにヒントがあり、ときどきにさりげない布石が置かれている。

 80年代に取材した父親のフランシス・フォード・コッポラ監督は素顔もおおような人だった。対して一昨年にインタビューした娘のソフィア監督は同様の大物感を漂わせながら隙のない印象だ。銀食器の微妙な汚し方など、細部へのこだわりが半端じゃない。

 カメラマンのフィリップ・スールはそんな監督の思いを受けて、原則日光で撮影し、自然光が足りないときは電灯ではなくロウソクで補った。だから映像は絵画のように輪郭が柔らかい。

 キッドマン以外のキャストも適材だ。ソフィア作品の常連キルスティン・ダンストが中年女性の純情を演じ、「パーティで女の子に話しかけるには」(17年)のエル・ファニングが青い欲望を見事ににおわせている。【相原斎】