カナダ・トロントで毎年9月に開催される映画の祭典「トロント国際映画祭」は、北米最大規模の権威ある映画祭として近年、その注目度が増しています。今年で40周年を迎えたトロント国際映画祭は、今ではベネチア国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と共に世界4大映画祭ともいわれ、ここで最高賞を受賞した作品がその年のアカデミー賞候補にあがることも多いことからアカデミー賞の前哨戦としても業界から一目置かれる存在となっています。トロント国際映画祭は、ノン・コンベンション形式なのが特徴で、最高賞にあたるのは審査員ではなく観客の投票によって決められる観客賞。つまり、映画ファンたちによって選ばれる賞であるため、商業目的ではない作品がこの賞を受賞することも多く、近年は「スラムドッグ$ミリオネア」(08年)「英国王のスピーチ」(10年)「それでも夜は明ける」(13年)などトロントで観客賞を受賞した作品が、アカデミー賞を受賞しています。

 今年も世界70カ国から出品された計300を超える作品が上映され、その多くが北米プレミアとなる作品で、ハリウッドの話題作も目白押し。スターたちによるレッドカーペットや記者会見なども多数行われ、華やかな10日間となりました。日本からも河瀬直美監督の「あん」をはじめ、三池崇史監督の「極道大戦争」など7作品が出品され、コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門に選出されていた園子温監督の「ひそひそ星」がネットパック(NETPAC)賞を受賞しました。ジェイク・ギレンホール主演の「デモリッション(原題)」がオープニングを飾り、マット・デイモン主演でリドリー・スコット監督がメガホンをとった「オデッセイ」やエディ・レッドメインが世界で初めて性転換をした画家を演じた「デニッシュ・ガール」、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーが共演する政治ドラマ「アワー・ブランド・イズ・クライシス(原題)」などたくさんの注目作がプレミア上映されました。

 そして今年の最高賞となる観客賞を受賞したのは、レニー・アブラハムソン監督の「ルーム(原題)」。実際にあった監禁事件をモチーフにした男によって地下室に監禁された女性が秘かに子供を産んで育て、息子が7歳の時に脱出して保護されるも、初めての外の世界に戸惑うという同名のベストセラー小説を映画化したもの。この受賞で早くも今年の賞レースに名前を連ねることとなりましたが、同時に息子役を演じた8歳の子役ジェイコブ・トレンブレイにも注目が集まっており、今後の活躍が期待されています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)