オバマ大統領が27日に日本中が注目した歴史的な広島訪問を果たし、滞在中に訪れた原爆資料館で自ら折ったという4羽の折鶴を持参していたニュースは大々的に報じられました。

 実はこの広島訪問と同じ日、ここロサンゼルスでオバマ大統領が資料館でとても関心を持って見ていたという、禎子さんの折鶴を題材にした短編映画「折鶴~ORIZURU 2015~」が一般公開されました。この折鶴は広島に原爆が投下された時にわずか2歳で被爆し、鶴を千羽折ると願いが叶うと信じて10年後に白血病で亡くなるまで病棟で鶴を折り続けた佐々木禎子さんが残したもの。禎子さんは広島平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデルにもなっており、彼女が生涯をかけて折り続けた約1300羽の鶴は平和の象徴として日本はもとより、ハワイのパールハーバー記念館や原爆投下を命じた当時のトルーマン大統領の資料館トルーマン・ライブラリーなどにも寄贈され、展示されています。禎子さんの物語は、アメリカでも「サダコと千羽鶴」と言う名の絵本が出版されており、学校の授業で副読本として使われています。

 「折鶴~ORIZURU 2015~」を監督したのは、ロサンゼルス在住の曽原三友紀さんで、子供たちに戦争や平和、命の大切さを考えるきっかけになって欲しいとの思いで作られたものです。現代のロサンゼルスを舞台に、日本から越してきたばかりの小学生の男の子が新しい環境になじめずにいる中、真珠湾攻撃の生き残りの米退役軍人や禎子さんの実兄、佐々木雅弘さんとの出会いを通じて、平和を願った禎子さんの想いを知り勇気づけられるという物語。2人の子供を持つ曽原さんによると、アメリカの教育現場では真珠湾攻撃について習ったことがきっかけで日本人の子供がクラスメイトからいじめを受けるケースがあり、実際に自分の周りでも起きたそんな悲しい出来事をなくしたいという思いから本作の製作を行ったのだと言います。商業作品ではなく、短編にこだわったことには理由があり、「学校のクラスで鑑賞し、その後で思いやりの心や平和について話し合うための教材として使ってもらいたい」と曽原さん。

 27日にロサンゼルスで行われた公開に合わせて、劇中にも登場する禎子さんの兄の雅弘さんとトルーマン大統領の孫のクリフトン・トルーマン・ダニエルさんらが記者会見を行いました。原爆投下を命じた大統領の孫であるダニエルさんと妹を被爆で亡くした佐々木さんですが、2人は数年前から交流を続けており、核兵器の恐ろしさを世に伝えて未来の平和につなげるための活動を共に行っています。ダニエルさんによると、17年前に息子が学校で禎子さんと千羽鶴のことを学び、それを家で話してくれたことがきっかけで禎子さんのことを知ったのだと言います。その後、佐々木さんとの交流が始まり、2012年には広島、長崎の両市で行われた平和式典を家族で初めて訪れたというダニエルさんは、「祖父は戦争を終わらせて、アメリカ人の命を守るために原爆投下を決めた。私は愛する祖父が下したその決断を尊敬している。でも、その決断によって傷ついた私の友人もいる。戦争下の状況で下した決断には、正しいも間違っているもない。核兵器廃絶に向けて少しでも貢献することが今の自分の役割だと思う」とコメント。オバマ大統領の広島訪問を「よくやった」とたたえ、「アメリカはこれを機に、大統領ができるなら毎年、平和式典を訪問すべきだと思う。オバマ大統領が未来の大統領たちに、その扉を開いたのではないでしょうか。11月の大統領選で誰が大統領になるかは分かりませんが、今後もこのような機会が持てることを願います」と語り、核兵器のない世の中を作るためには、いつか誰かが「こんな馬鹿げたことはもうやめよう。核兵器は捨てよう」と声を上げることが必要だと話してくれました。

 オバマ大統領の広島訪問を受け、「非常にうれしいです。被爆者に自ら歩み寄り、ハグをされた。なかなかあそこまでとは思っていなかったので、感動しましたし、ありがたいと思います」と語った佐々木さんは、ロサンゼルス滞在中に日系人博物館と偏見・人種差別の歴史とホロコーストについて展示されている寛容博物館に禎子さんの折鶴を寄贈しました。

 日米どちらか一方が悪かったのではなく、戦争を二度と繰り返してはいけないというメッセージを、「折鶴」と共に、ダニエルさんと佐々木さんは訴えています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)