ブロードウェーにもっとも近い女優は、宝塚OG版のミュージカル「シカゴ」でトリプルキャストでヴェルマを演じている湖月わたる(45)だろう。174センチの長身で、ダンスの切れも群を抜いている。

 ブロードウェーでのロングランが今年で20年になった「シカゴ」には米倉涼子がロキシー役でブロードウェーデビューしている。湖月は12年に上演された宝塚OGによる抜粋版に出演し、14年の全編上演でも出演した。15年にシャーロット・ケイト・フォックスがロキシーを演じた米国カンパニー来日公演では短期間の限定だったが、英語のせりふでヴェルマを演じた。

 湖月の出演の背景には、歌、ダンス、芝居の実力を、宝塚OG版の演出・振付のために米国から来日したスタッフが認め、英語のせりふを覚えるように勧められた。湖月は英語の個人レッスンを受けながらせりふを取得。湖月の出演するビデオを米国のプロデューサーが見て、限定出演にゴーサインを出した。来日キャストも湖月の実力を認め、出演初日を前にした稽古にも積極的に協力した。湖月は「英語の歌、せりふの稽古は今までにない密度で、よりヴェルマが身近になった」という。そして、7月の宝塚OG版「シカゴ」のニューヨーク公演で、「日本とは違う、笑い、反応がうれしかった」と確かな手ごたえを感じていた。

 湖月ほど努力家という言葉があてはまる人はいない。中学卒業で宝塚歌劇団に入団したが、父とは「宝塚をやめたら大学に行く」と約束。その言葉通り、トップスターに上り詰めて退団した後、放送大学に入り、舞台などを務めながら、教養学科の心理と教育コースを卒業した。舞台でも同じように努力を積み重ねた湖月は、ニューヨーク公演を経験して「ブロードウェーはあこがれの場所だったけれど、今は目標の場所になった」と明言する。努力のご褒美として、湖月がブロードウェーの舞台に立つ日も近いかもしれない。【林尚之】