劇団四季ミュージカル「キャッツ」の東京公演が11日、東京・大井町のキャッツ・シアターで幕を開けた。初日、開演時間より少し早く、劇場に入ると、すでに多くの観客が劇場内を回遊していた。お目当ては、劇場内のいたるところに飾られた大きなゴミのオブジェ。汚れや傷も克明に再現され、大きさも猫の目線に合わせて、実物の3~5倍になっている。

 「キャッツ」は都会の片隅のゴミ捨て場に集まった猫たちが主人公とあって、ゴミのオブジェも大事な舞台装置。83年の初演の時も、どんなゴミが置かれるか話題となったが、その後、全国各地で上演される時は、大阪なら「たこ焼き器」、札幌なら「ジンギスカン鍋」など、ご当地ゴミも登場した。ゴミの量も徐々に増えて、今回の東京公演では、品川の観光大使「シナモン」などのご当地ゴミをはじめ100点以上を新しく作り、ゴミの数は約3000個、重さも10トンを軽く超えている。

 数や重さだけでなく、ゴミに対する製作側の思いも変わってきている。初演から舞台美術を担当している土屋茂昭さんによると、きっかけは11年3月の東日本大震災だった。震災から4カ月後、劇団四季は「ユタと不思議な仲間たち」を被災地で公演したが、土屋さんは下見のため、一足早く、被災地を訪れた。そこで目にしたのは、がれきの山だった。被災する直前までは、誰かが日常的に使い、愛用していたものが、ゴミとして、がれきの山の中に埋もれていた。

 「がれきの山を見た時、僕たちがやっていたのは、心を持っていなかったのかもしれないと思いました。シチュエーションとしての都会のゴミ捨て場を、ただ作っていたと気が付いたんです」という。「キャッツ」の劇中で歌われる曲の歌詞を思い出した。「幸福の姿」は「思い出をたどってよみがえり、新しい形で生まれ変わった命こそ、本当の幸せなのだ」と歌い、「メモリー」も「思い出をたどり、歩いてゆけば、出会えるわ、幸せの姿に、新しい命に」と歌う。思い出こそが、「キャッツ」の大事なテーマの1つだった。

 「ゴミの1つ1つにも、誰かの思い出がこもっている。舞台を飾るゴミは、思い出のかたまりなんだと、意識するようになった。11年以降、この作品をやっている意味を強く感じることができたし、思いを新たにすることもできた」という。そして、今回の東京公演では、ゴミの中に一つの仕掛けを施した。それは、「見つけた人に幸運が訪れる」という4つ葉のクローバーを、1つだけ植えている。三つ葉のクローバーはいくつかあるが、4つ葉のクローバーは1つだけ。しかも、定期的に置く場所も変えているという。「キャッツ」を見る楽しみは、開演前から始まっている。【林尚之】

劇団四季ミュージカル「キャッツ」
劇団四季ミュージカル「キャッツ」