芥川賞作家吉田修一氏の人気小説の映画化。右を見れば渡辺謙、左を見れば森山未来、さらに松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡、広瀬すずと、各世代にスターを配した。「オーシャンズ11」を思わせる豪華さは、吉田氏の唯一の希望だった。ここまで主演級がそろうと、それぞれがけんかしがち。ところが、主演ながら控えめな渡辺の存在感が絶妙で、バランスが保たれている。李相日監督の手腕も見事だ。

 郊外の住宅地で夫婦惨殺事件が発生した。浴室には「怒」の血文字。犯人の怒りの着火点は? 冒頭から、上質なミステリーとして期待が高まる。事件から1年、千葉では渡辺、宮崎の父子と、その恋人松山の恋物語、東京では妻夫木と綾野のゲイカップルが抱える闇の物語、沖縄では広瀬と森山演じるバックパッカーらの交流がそれぞれ進行する。オムニバスのような3都市の話が事件と1本の糸でつながったとき、すべての登場人物をやるせない「怒り」が襲う。その衝撃は、実写映画ではそうそう味わえないレベルだ。

 ネタバレとの境界線が難しいが、広瀬と森山がリミッターを外した怪演だったことは記しておく。【森本隆】

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