強い日差しもマイアミの湿気に包まれ、絵画のように輪郭をまろやかにする。夜間シーンは柔らかな照明が工夫され、美しい。映画の原点は光と実感させる。

 ストーリーは対照的だ。主人公シャロンは薬物中毒の母親と2人暮らし。ゲイの彼は学校でいじめられ、唯一優しい男は、実は母に薬を売る麻薬ディーラーと救いがない。黒人ばかりの登場人物。「僕の母も麻薬中毒だった」と明かすバリー・ジェンキンス監督が描く「これもアメリカだ」。

 悪循環の中で、親友ケヴィンの優しさだけが救いだ。彼への思いは断ち切れない。ある事件を経て、シャロンは麻薬ディーラーに成り上がっていくのだが、思いは変わらない。

 成人後の再会シーン。「告白」までのひとときは折れそうなほど繊細に描かれる。マッチョな男の純愛が笑えないほど美しい。殺伐としていたはずのストーリーが背景の静寂とウソのように重なっていく。

 そもそも賞に強いといわれる「珠玉の作品」が候補にそろっても、今年こそは躍動感の「ラ・ラ・ランド」がアカデミー作品賞でいいのではないかと思っていた。だが、ここまで突き抜けると納得である。【相原斎】

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