スマホで映画を撮る。メジャー作品としては、2019年に斎藤工主演×白石和彌監督で実現した「麻雀放浪記2020」が最初だろうか。他にも年に数回、海外作品でも見かけるようになってきている。最近のスマホの金額を考えれば“あり”な気もするが、携帯電話自体がそれほど普及していなかった昭和世代からしてみたら驚きの世界であるのは確か。

映画製作における身近さ。何本か劇場用の映画を撮っているが、編集はスタジオではなく家のパソコンで行っている。しかもそこまで高スペックではなく家庭用に毛が生えた程度のPCである。また、その日に撮影した映像データをファイル転送サービスで送ってもらい、軽くつなげて撮影中にキャストに雰囲気をつかんでもらうなんてことも日常的にある。本当に気軽に映像作品が作れる時代がすでに来ている。

そこで取り上げたいのは、Apple制作・全編iPhoneで撮影されたショートムービー「ミッドナイト」(YouTubeで公開中)。主演は、前回Netflixドラマ「忍びの家」で紹介した賀来賢人、そして監督は三池崇史が務める。さらに原作は手塚治虫の同名マンガと、プロが集まり本気で撮ったショートムービーといったところだろうか。

物語は、無免許のタクシードライバーが夜な夜な事件を解決するブラックジャックにも似た世界観。スタイリッシュな映像とともに、激しいカーアクションが見どころの20分の短編良作。

そして今回紹介したいのは「ミッドナイト」でヒロインを務めた加藤小夏(24)。CMをはじめ、映画やドラマと出演しているがしっかりとお芝居を見たいのは今回が初めて。透明感ある中、意志のあるその表情が手塚作品の雰囲気にピタリとハマり、登場シーンではマンガの中から出てきたのかと思った。賀来賢人に加え、小澤征悦など豪華メンバーの中でも引けをとらず十分すぎる存在感。彼女の良さが存分に伝わる作品になっている。

既存コンテンツ(ドラマ、映画、舞台)に加え、配信ドラマや2・5次元舞台、そしてリアリティーショーなど俳優が活躍する場が増えてきているが、YouTubeで気軽に楽しめるショートムービーからスターが出てきてもおかしくない。そういった意味でも彼女の今後の活躍に期待です。(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて南青山でカレー&バーも経営している。直近では映画「その恋、自販機で買えますか?」「映画 政見放送」が公開。