「第30回フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞した鈴木すみれさん(右)。左は第1回受賞者の脚本家坂元裕二氏
「第30回フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞した鈴木すみれさん(右)。左は第1回受賞者の脚本家坂元裕二氏

「第30回フジテレビヤングシナリオ大賞」に14歳女子中学生、鈴木すみれさんの「ココア」(来年1月4日午後11時半)が選ばれ、創設30年の節目を史上最年少受賞で飾った。30年前、新枠の月9を書く脚本家がいないという切迫した裏事情で創設したヤンシナ。プロデューサーとして立ち上げに携わった大多亮常務は「30年も続くと思わなかった」と振り返り、中学生受賞に「月9も書いて」と祝福している。

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大賞受賞作「ココア」は、学校や家族から疎外された3人の女子高生が、生きる希望を見つけるまでのオムニバスストーリー。「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」などの敏腕プロデューサーでもある大多氏は「永山耕三(「ロングバケーション」「モンテ・クリスト伯」など演出)が読んで『坂元裕二以来の天才』と興奮していた」と明かし「小説家も中学生や高校生がたくさん出ている時代。14歳の大賞もおかしくない。特にヤングシナリオ大賞は、完成度より感性度が大切なので」と語る。

コンクールが創設されたのは87年。新枠の月9がまだ何のブランドでもない時代だった。書いてくれる売れっ子脚本家がおらず、同世代の作家を発掘して即登板してもらう目的で始まった。「あの時はとにかく脚本家が欲しい、自分たちの手元に置きたいというのが願いだった」。今や脚本コンクールのトッププランドに成長したことに「脚本がドラマの命であり、うちの財産になってくれるという強い気持ちが現場に脈々と受け継がれてきた結果」と話す。

脚本コンクールは各局にもあるが、ヤンシナの知名度と実績が群を抜いている背景には、即戦力主義で現場に出していく育成システムがある。大多氏が発掘した第2回大賞の野島伸司氏は、受賞から半年で連ドラ「君が嘘をついた」(88年)を書き、91年の「101回目のプロポーズ」まで毎年月9に起用されている。

大多氏は「最初は『そんな素人を使って』といろいろ言われましたけど、とにかく実戦で投げながら覚える」「ドラマ作りは、プロデューサーと脚本家のコンビネーション。それは現場でしか育たない。自分たちの書いたものが映像化され、視聴者の目に触れ、視聴率が出る。そういう体験を何度もしてお互い勉強していく」。出身者に他局で活躍されてしまうジレンマにも見舞われているが「それは創設当初から分かっていたこと。フジ出身の脚本家が多方面で活躍しているのはうれしい。その上で、うちをいちばんのフランチャイズにしてほしいという思いはあります」。

第30回フジテレビヤングシナリオ大賞「ココア」。左から、南沙良、出口夏希、永瀬莉子(C)フジテレビ
第30回フジテレビヤングシナリオ大賞「ココア」。左から、南沙良、出口夏希、永瀬莉子(C)フジテレビ

今も昔も、受賞後はプロデューサーとの二人三脚でオリジナル脚本を仕上げていくのが主な流れ。この10年を見ても、野木亜紀子氏(10年大賞)は14カ月後に「ラッキーセブン」、倉光泰子氏(14年大賞)は17カ月後に「ラヴソング」で月9デビューしている。

そう考えると、現在中2の鈴木さんが今後、月9でスピードデビューを果たすのも、なくはないようにも思える。小1から小説を書き始め、すでに6作仕上げているという創作意欲もある。大賞受賞作「ココア」も、中学生とは思えない筆致でぐいぐい読ませる世界観が印象的だ。現役中学生だから書ける16歳のせりふがみずみずしい一方で、「映画やドラマを見て、気持ちを想像して書いた」という不倫妻のベッドシーンなど、大人の世界も堂々と表現。「無限の可能性」(荒井俊雄審査委員長)という評価もよく分かる。

これまでの最年少記録は、第1回大賞の坂元裕二氏の19歳。その坂元氏を「最も尊敬する脚本家」と語る鈴木さんが記録を塗り替えたことにも歴史を感じる。その坂元氏と「東京ラブストーリー」などでコンビを組んだ大多氏は「14歳で月9書かせたら制作も大したもんだけどね」と、やはり即戦力目線。「僕のころはラブストーリーだったけど、最近のドラマは弁護士やお医者さんモノが多いからどうだろう。いや、書けるかもしれませんよ」と話している。

◆「ココア」(来年1月4日午後11時半放送) 出演は南沙良、出口夏希、永瀬莉子ら。自分、家族、友達など、愛せないものに悩む3人の女子高生の青春群像劇。母親の不倫相手役として斎藤工が出演。

◆ヤングシナリオ大賞でデビューした主な脚本家 【大賞】坂元裕二、野島伸司、尾崎将也、金子ありさ、安達奈緒子、金子茂樹、古谷和尚、野木亜紀子、小山正太、倉光泰子ら【佳作など】水橋文美江、橋部敦子、浅野妙子、いずみ吉紘、武藤将吾、黒岩勉ら。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)