カンヌ映画祭「ある視点部門」の授賞式が23日(日本時間24日)行われ、黒沢清監督(59)が「岸辺の旅」(10月1日公開)で日本人として同部門初の監督賞を受賞した。2008年に「トウキョウソナタ」で同部門の審査員賞を受賞して以来、7年ぶり5度目のカンヌで新たな名誉を手にした。

 うれしさと、恥ずかしさが入り交じった第一声だった。「長年やってきてたまに味わうと、映画を作ってきて良かったと思う」。同部門は、コンペティション部門に入らなかった秀作や斬新な映画を集めた部門。受賞した自身以外の5監督は、40代以下で「僕は圧倒的に年寄り」と苦笑した。

 深津絵里(42)演じる妻が、浅野忠信(41)演じる3年前に失踪した夫の幽霊と旅をする物語は、名女優イングリッド・バーグマンの娘で、審査委員長を務めたイタリアの女優イザベラ・ロッセリーニらの胸を打った。

 黒沢監督は授賞式当日はパリにおり、正午頃に関係者から「とにかく授賞式に来て下さい」と連絡を受けた。面食らいつつ、午後3時半発の航空機に乗り、同7時過ぎに始まった授賞式に駆け込んだ。08年は病気の妻のため、公式上映後、日本にとんぼ返り。今回は回復した妻を伴っての式で、「妻と一緒に来て本当に良かった」と感激した。

 黒沢明監督との血縁はないが、カンヌ映画祭初参加の99年には、関係性をよく聞かれたという。その後、芸術性が高く、深い示唆を含む作品性が認められ、国際映画祭招待の常連となった。「事件を描くことが主眼だったのに初めて人生を描けたかな」と黒沢監督。「キヨシ・クロサワ」を見続けたカンヌは、新たな挑戦を評価した。【村上幸将】

 ◆黒沢清(くろさわ・きよし)1955年(昭30)7月19日、兵庫県生まれ。立大社会学部で蓮実重彦氏に師事し、8ミリ映画製作を開始。故相米慎二監督の81年「セーラー服と機関銃」などで助監督を務め、83年「神田川淫乱戦争」で監督デビュー。97年「CURE」以降、ホラーやサスペンス作家として世界的に評価される。昨年、「セブンスコード」でローマ映画祭最優秀監督賞。