山田洋次監督(84)の新作「母と暮せば」(12月12日公開)完成披露試写会が22日、都内の丸の内ピカデリーで行われた。

 この日の試写会は、一般からの応募の倍率が1200倍に上った。舞台あいさつ前に行われたレッドカーペットには主演の吉永小百合(70)、息子役の嵐・二宮和也(32)のほか黒木華(25)浅野忠信(41)加藤健一(66)本田望結(11)が参加。二宮人気からか女性ファンが多く、二宮が歩き出すと、場内に女性の黄色い歓声がこだました。二宮は、ファンがレッドカーペットに映画のチラシを落とすと、優しく拾って笑みを送った。すると、さらに歓声が起きた。

 吉永は劇中で助産婦の福原伸子を、二宮は長崎医大の授業中に原爆投下で亡くなり、3年後に亡霊となって母の前に姿を現す次男・浩二を演じた。舞台あいさつでは、山田監督の映画に5本目の出演となる吉永が、山田組初参加となる二宮の才能を絶賛した。

 「監督から難しい注文が出るんですよね。その時に、ヒョッとそれを受け止めて次のテストではできている。軽やかですし、リズム感が良い。男性ですけどフェアリー(妖精)のようにパッと、その役を演じられる」

 二宮はそれを聞き「僕も改名しようと思います。“フェアリー和也”に」と宣言。その上で、ほぼ2人芝居を演じ続けた吉永が、撮影中、自身のことを“取材”していたと明かした。

 「(吉永は)すごくお優しい方で“フェアリー”(二宮)の情報が、どんどん更新されていくんですね。普通だと、今まで起きてきたこと(過去のプロフィル)をなぞらえて、お話しすることが多いんですね。それが『先週はああだった、今週はああだった』と。自分たち嵐の番組を毎週、見てくださったり…さすがだなと思いました」

 二宮演じる浩二の恋人・佐多町子を演じた黒木は、生前の恋人同士を演じる中で、二宮と腕相撲などをした後、顔を近づけ合って、鼻を指でつつく“鼻ツン”シーンを演じたことを振り返った。

 「“フェアリー”(二宮)の顔が間近にあると、緊張してしまいます。申し訳なかったです。“鼻ツン”は女性から(できること)なので、ぜひ使ってください」

 質問の最後に、司会のテレビ朝日・大下容子アナウンサー(45)から、二宮演じる浩二が亡くなった後、亡霊となって出てくる物語にちなみ「亡霊でも会いたい人は?」と質問が出た。山田監督は「僕は妻を亡くしていますんで…やはり妻ですね」と答えた。吉永は「私も…父に会いたいです。事故みたいな感じで亡くなり、声をかけられなかったですから」と語った。

 山田監督は最後のあいさつで、デジタルでの撮影、上映が当たり前となった今でも、フィルムで撮影することへのこだわりと、この日の試写会が1本だけ作ったフィルムでの上映となったことを明かした。

 「僕は、どうしてもフィルムが好きで(『母と暮せば』も)日本では作っていないから米国製のフィルムで撮影しました。フィルムで撮ったものを、デジタルに変えて上映するんですが、1本だけ作ったフィルムでのプリントがあります。つい、この間、見たんですが、画もいいし音もすばらしい…フィルムって、こんなにいいんだと思いました。今回の上映会を、何とかしてフィルムでできないかと会社(松竹)と相談した。今、フィルムの映写機はほとんどない。でも、ここ(丸の内ピカデリー)には、ちゃんと映写機があった。何年も使っていないものを昨日、一昨日とテストして、フィルムで上映する結論になった。良かった。もう2度と…僕たちでもフィルムで見ることはないだろう。今夜の皆さんだけじゃないかと思っております」

 山田監督の熱い言葉に、吉永は目に涙を浮かべた。