放送終了後“ロス”に陥るファンが続出した、TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)の、原作漫画の番外編が2月25日発売の月刊漫画誌「Kiss」(講談社)4月号に掲載される。原作者の海野つなみさんの担当編集者を20年以上にわたって続けてきた、講談社「Kiss」編集部の鎌倉ひなみさんが「逃げ恥」の魅力を語った。第2回は「逃げ恥」をはじめとした海野さんとの二人三脚の制作の歩み、多様な価値観が描かれた「逃げ恥」に流れる考え方など制作の裏側を語った。

 -「逃げ恥」には、性交渉を持たない男女、同性愛者など、多様な価値観が許容されつつある今の時代が盛り込まれている。海野さんは意識して作ったのか

 そんなに考えてはいないと思いますけどね。私は担当して20年以上になりますけど、私と海野さんは、常に…ずっと王道を書いてきたつもりだったのが、いつも「(時代から)早すぎるね」などと言われて…。どちらかというと、サブカルチャーのような色に見られてきました。(時代が)追いついたのもそうでしょうし…私たちの感じていた“今感”が少し早かったのかも知れませんね。

 -連載を始めたのは12年、ドラマの放送は、4年後の16年。人々の意識に変化はあると感じるか?

 連載を始めた当初は、大卒の女の子の(なりたい)職業のトップに専業主婦、公務員がきたり、安定したい…でも就職できないというのが、顕著な時代でした。今は本当に時代が変わってきていますけど、そんなに個人の意識は変わらないと思います。たとえば、みくりの伯母・百合ちゃんのような人(高齢処女)は昔からいて、周りにもたくさんいましたけれど、昔だったら「自分は痛々しいわけでもないし、好きにやっていていいじゃん」と言ったところで、きっと痛々しいと言われたと思います。男の人の高齢童貞にしても「別にいいじゃん、やりたくないんだから」と言った時に、「そうは言っても、本当は違うんじゃないの?」って、ずっと否定していても言われていたでしょう。それが「確かに、無理してすることじゃないよね」みたいな形になったのが、最近だと思います。「(やらないことが)本当にいいよね」と言える土台が出来たというか、そういう人たちが声を上げやすくなったんだと思います。ちょっと前から素地があったのが、やっと市民権を得たというか、言っても否定されなくなったのかなと。

 -女性が出産しない選択をするのも普通になった

 昔から、そういう人たちはいっぱいいたと思うんですけど、そうですとは言えなかったんだと思います。

 -契約結婚をした平匡、みくりのように、10歳以上の年の差の男女の付き合いも、普通な時代になった

 それは、確かにそうかも知れませんね

 -多様性を認める時代だからこそ「逃げ恥」が、すごく受け入れられたのでは

 海野さんと私は、ほぼ年は一緒なんですけれど…私たちが、かなり年齢が上になってしまったので、若い時は「これ、本当にいいのかな?」とか模索しながら作品を作っていたのが、今は「それで、いいんだよ」って言えるんですよね(笑い)私は結婚して、子どももいて、仕事もしている状態で、海野さんは結婚しないで仕事をしている。サラリーマンと自由業と立場も違うけれど、そういう2人が作っていく中で話をしていて、何の違和感もないんです。「じゃあ、こういうことになった時に、こんなことをされたら、どう思う?」みたいな話が、お互いの立場として言える上に、立場とかで人間って優劣はない、変わらないよね、ということが分かってきているので、作品は作りやすいかなと思うんです。

 -互いの人生経験が、作品作りに生きている

 「あなた、結婚しないから、しょせん、こんなきれいごと言うけど」とか「あなたは結婚しているし、お子さんもいるからいいわよね」みたいに言われがちですけれど、20代前半からずっと一緒に作品を作っているので、お互いに偶然、こういう人生になっていることは分かっているから。年を重ねて…いろいろな方面からの話は入りやすい。「こういう表現したら、この立場の人は、ちょっと違うふうにとらえちゃうかも知れませんよね?」という話もお互いに出来る。男女のいろいろな人生の選択肢については、片方の側面からの愚痴とか不満よりは、お互いに頑張っているよねと認めあえる作品にしようね、という部分には、うまく作用したと思います。生き方とか、結婚している、していない、お子さんがいる、いない、仕事をしている、していないなど、よくカテゴライズされがちですけど、そういうものじゃないような気はするし、そういうところで人間は計れないところは、もちろんあると思います。悩みの時期は、結婚していない人、している人で多分、違うと思うんですけど、みんな同じように悩んで生きているんですよ。それって、40歳を超えないと分からないんじゃないかと。そういう意味では、優しい気持ちで作品を作ることが出来る感じがします。「逃げ恥」は結構、いろいろな方を取材し、想定して書いているので…海野さんも私も長年、やってきて、やっと、こういうことが出来るようになったのかなという気がします。

 -原作漫画の良さは、どこにあると思うか

 漫画は基本的に作っている人数が少ないですし、4年間、コツコツと作っているんですよね、変な話(笑い)。ドラマを見た人は、「逃げ恥」は突然、ドラマで始まって、バーンッて売れてドヒャーって感じだろうけれど、私たちからすると、連載が始まる1年前、11年の6~7月に「今度の話、どうしましょう?」みたいな打ち合わせをしてから、ずうっと、ずうっと「逃げ恥」のことを考えてきました。(ドラマ版とは)作り方は違うかな、と思いますけど、どうアレンジしてくれるかは楽しみだった。

 -漫画とドラマに近いものがあると感じたことは?

 (みくりの妄想に出てきた)「ザ・ベストテン」にしても、すごく遊んでくださった。みなさん、昔(放送当時)の道具を、そのまま使ったとおっしゃっていましたし(歌手が出てくる)回転ドアも手で回したと言っていました。そういう細かいところに面白さがあるのは、漫画に近いですよね。海野さんの漫画も、たまに昔の漫画の登場人物が出てきたりするんです。気付いても気付かなくてもいいから楽しい…というところが、面白い、楽しんでくれているかが分かるポイント。ドラマは楽しんで作ってくださっていた。

 次回は最終回。鎌倉さんが「逃げ恥」番外編の内容と今後について語る。【村上幸将】