先月の「元祖爆笑王にはまりにいくライブ」で優勝したお笑いコンビ「マドンナ」が、注目を浴びている。

 ボケの松浦周作(33)とツッコミの石倉智喜(32)の正統派のしゃべくり漫才だ。フジテレビ系「めちゃ×2イケてるッ!」などの売れっ子放送作家・元祖爆笑王氏(52)が、観客の前で出演者に駄目出しをして行く中、R-1ぐらんぷり2013王者の三浦マイルド(39)や落語家三遊亭とむ(33)らの実力者を抑えてトップになった。爆笑王氏からは「まだまだ、完全にはまったわけじゃない。でも、いいものを持っている。ひとつきっかけをつかめば、売れると思うよ」と辛口のエールを送られた。

 松浦は大阪・吹田、石倉は奈良・御坊の出身。ともに小さい頃からお笑いに憧れた。吉本の養成所NSCではなく、それぞれ別の相方と組んで劇場のオーディションからはい上がって吉本入りしたたたき上げだ。結成は11年5月。松浦は「2人とも前のコンビを解散。やめることも考えたけど、もう1回やってみようと、大阪の千日前の交差点に石倉を呼び出して『売れるためにコンビを組みたい』と」。石倉は「『やりましょうか』って即答したんだけど『あかん、ちゃんと考えろ』って」。3日後、真剣に考えて電話をした石倉に返ってきた返事は「ちょっと今、ストリップ見てるから、後にしてくれ」だった。松浦は「しっかり見終わって、ちゃんと1時間後に電話しました」と笑う。

 すでに、2人とも20代後半だった。失敗は許されない状況に追い込まれていた。ネタ合わせのために石倉が初めて松浦の自宅を訪ねると、そこに女性がいた。石倉は「2人とも泣いてて、『ちょっと、待ってて』と出ていったまま戻らない。初めての家に来て、30分も放っておかれたんですから『なんや、これ?』って感じでした」。松浦は「ちょうど別れ話をしていたんです。その後、涙をぬぐって、すぐにネタ合わせしました(笑い)」。石倉は「電話したらストリップだし、ネタ合わせに言ったら別れ話だし」と苦笑する。

 コンビを組んでからは順調に劇場のレギュラーの座をつかんだ。ネタ番組にボツボツ出られるようになったが、そこから先が見えない。14年7月に思い切って上京した。松浦は「東京で一からやり直そうと思ったんですが、マイナスからでした(笑い)。大阪じゃちゃんと舞台に出られてたのに、上京してからは大宮の劇場でネタバトルに参加して下積みからです。つらかったですね」と振り返る。今は、東京・渋谷の∞ホールに出られるようなった。松浦は「今は楽しい。東京に来て、ホンマに良かった」。石倉は上京したばかりの頃に、同期扱いのオリエンタルラジオ藤森慎吾の家に行った時の事を「都心にあって、家の中がすごかった。豪華で、これが売れるということかと思い知った」と振り返る。

 2人ともコンビニ、宅配ピザ、ラウンジのボーイなどのアルバイトを掛け持ちしている。松浦は昨年1月、上京以来住んでいたアパートが取り壊しになり、ホームレスになった。「でっかいかばんと寝袋を持ってウロウロ。友達に頼らず、街で知り合った人に笑ってもらって泊めてもらおうと」。練りに錬った1分間のプロフィルトークで笑い取り、大宮、中野とフカフカの布団に眠り、たらふく食わせてもらって「太った(笑い)」。石倉は「リュックのアミに歯ブラシと(うがい薬の)イソジン入れて、どこの風俗嬢かと思った」と笑う。

 大阪時代にしのぎを削った和牛、かまいたち、学天則、ミキはM-1で既に準決勝進出、堂々たる次のチャンピオン候補だ。マドンナは2回戦敗退、3回戦敗退と、はるかに後れを取る。それでも2人は「目標は、もちろん漫才で日本一になること、M-1の優勝です。いろいろな漫才ができるし、ネタのストックも100本近くある」と言い切る。

 風向きが一つ変われば、一気にライバルに追いつき、天下取りに割って入る実力は十分。あとは、世間にはまるだけだ。【小谷野俊哉】