<2006年4月16日

 日刊スポーツ東京本紙最終版掲載>

 俳優蟹江敬三(61)。その名を聞くと、役柄よりも、その立ち位置を思い浮かべてしまう。「名バイプレーヤー」というポジションだ。名前を顔を売ってなんぼという世界では、安定した場所があるのは決して悪いことではない。だが蟹江はそれを「レッテル」と言い切り、イメージにあらがい続けてきたという。「一切のレッテルからかけ離れた、俳優としか言いようのない存在になりたい」。役者になって40年、意外にも初めて映画で主役を演じた蟹江が目指すものとは-。

 舞台でもドラマでも経験はあった。映画では今回が初めての主演だった。「MAZE

 マゼ」で孫を引き取る漁師の祖父を演じた。それなりの喜びや気負いがあったのではないかと思ったが…。

 「気負いはほとんどなかったですねえ。この年になって、気負ってもろくなことないですから。1人の人間を演じるということにおいては、主役であろうと脇であろうと、やることは同じ。感慨深く感じるようなこともないかなあ。ただ、移動に僕専用の車が1台つきました。そういう意味での楽さはあったけど、淡々としたもんでした。すんません」。

 「台本は主役の心情に沿って書かれているので、余計なこと考えなくてよかった」と、役へのアプローチについてはメリットを語るが、取材など苦手なことも増えた。あまりに淡々としているので、実は主役とか脇とかどうでもいいですか?

 と聞いてみた。

 「はははっ、そうですね。そう珍しいことでもないだろうって。当人はそんなに意識してませんね」。

 そして「名バイプレーヤー」というところに話が及ぶと、それまでとは違った真剣な表情になった。

 「『名バイプレーヤー』って、1つのレッテルですよね。俳優にはいろんなレッテルがある。個性派、性格俳優、演技派、二枚目、今で言ったらイケメン。いろんな表現の仕方があるじゃないですか。そういう一切のレッテルからかけ離れた存在になりたいんです。レッテルを張りようのない俳優が理想。『俳優としか言いようがない存在』というのを目指しているんだけど。もどかしい時期もありましたよ。悪役ばっかりとか、刑事ばっかりとか。常にもどかしさはあるんですが、1つのイメージに固まらないように、できるだけいろんな役をやろうと思ってました」。

 今ではもちろん、悪役だって、刑事だって、コミカルな役だって、ナレーションもこなす。もしかしたら、蟹江がずらっと並べた「レッテル」は、全部に当てはまらなくて、全部を持っている人なのかもしれない。