美術家の横尾忠則さんの話

 1960年代は、政治的にも文化的にも時代の変わり目だった。その動乱期のやくざ映画で健さんは大衆から支持され、僕もその一人だった。健さんへのオマージュとして、頼まれてもいないのにポスターやイラストを描いた。60年代後半、ホテルのロビーで初めてお会いした。先に着いていた健さんはぱっと立ち上がり、深々とお辞儀した。僕は自分の重心が狂ったようになり、どうしていいか分からなくなった。だらしのない自分がさらけ出されるように感じた。それから45年ほどお付き合いしたが、あのときのたたずまいがその後の健さんの全てを表していたと思う。僕は三島由紀夫さんが亡くなったとき大きなショックを受けた。健さんの死は三島さんのような事件ではないけれど、僕にとっては“事件”です。