昭和の名コメディアン東八郎さん(享年52)の次男でタレントの東貴博(38)が、亡き父との思い出を初めてつづった自伝的小説「ニセ坊っちゃん」(幻冬舎)を30日に発売する。「お前のオヤジってバカだよな」と言われた少年時代。どうしたら父の偉大さを周囲に伝えられるか悩み、裕福な家庭の「お坊ちゃま」として振る舞っていたエピソードを披露。1万円札で汗をふく現在の金持ちキャラの原点は幼少期にあった。

 有名芸能人の息子として苦労はあった。しかし、それ以上に父が誇りだった。「コメディアンの息子だからバカにされるのが『みんな、うちのオヤジのことを誤解してる。こんなにすごいのに』と悔しかった。だから、友達に分かってもらうために金持ちぶってた、坊ちゃんぶってたんですよね。『ホームレス中学生』が流行したから『金持ち小学生』にしようか迷ったんだけど『ニセ坊っちゃん』にしました」。これがタイトルに込めた意味だった。

 初の自伝を小説風に仕上げた中で、東は「絵の具」にまつわる思い出を紹介している。芸能人の息子として裕福に暮らす「振りをする」ため、近所の文房具店で最も高価な36色の絵の具セットを購入。学校で「飛田(東の本名)の家は金持ちだ」と株を上げた。しかし、実際は自分の小遣いをかき集めて買ったものを、八郎さんからのプレゼントに装った。父の威厳を保つため、子供なりに考えた。

 これが今の芸風「金持ちキャラ」の原点であり「下町のプリンス」として最も得意な行動だった。「万札や金塊で汗をふいたり金持ちぶってるけど、実は子供の時から変わってない。教育方針か分からないけど、親は欲しい物を買ってくれなかったから、そう振る舞った」。東MAXのキャラは昔も今も同じだった。

 父の死後20年の節目に筆をとった。「七回忌は法事をして、十三回忌は普通じゃ面白くないから法要ミュージカルを上演した。今回は本を出したかった」。昨年12月から書きためた原稿用紙は計303枚。番組収録やロケの合間に多い日で1日30枚ほど、当時を振り返り、すべて手書きした。

 著書の中では、ほかに父親のイメージアップを計る貴博少年の試みや八郎さんに怒られた話、88年7月6日に八郎さんが亡くなった様子などを描写している。