合成麻薬MDMAを飲んだ女性を死なせたとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われている俳優押尾学被告(32)が9日の公判4日目で、さらに追い詰められた。事件当日に出動した救急隊員の赤坂消防署員と、事件現場からもっとも近い麻布消防署の元署員が証人尋問で出廷。119番通報から5分以内で現場に到着できると証言した。また薬物中毒など生命に危機が及んだ傷病者を対象にした「3次救急」で対応すれば、救命できた可能性が高いことを示した。10日の公判5日目は、被害者の遺族が証人として出廷する。

 保護責任者遺棄致死罪に当たらないと主張する押尾弁護団の根拠である「時間の壁」が崩れ始めた。昨年8月2日の事件当日に、現場に急行した赤坂消防署員は、午後9時19分に通報を確知して1分後に出動。同28分には現場に到着したと証言した。田中香織さん(享年30)はすでに亡くなっており、遺体を確認すると死後硬直と背中と首に死斑があったという。

 現場からもっとも近い麻布署の元署員も、現場までは時速40キロで走行して2~3分、日赤医療センターまでは5分で到着すると証言。信号などでロスがあっても到着は2~3分しか遅れないと主張した。いずれの証言も、検察側が実験し検証した、病院搬送まで19~22分というデータと一致している。

 田中さんの死因とみられる薬物中毒を含め、生命の危機にひんした傷病者が対象の3次救急について、救命救急センターへの搬送は「23区内なら119番通報から30分以内で着きます。新宿区、中央区、港区なら15分以内」と証言した。東京消防庁総合指令室が病院を選定し、救急隊は処置と搬送をするのみなので迅速な対応が可能だという。

 一方、押尾弁護団は同署の出動調査報告書を証拠として提出し、119番通報の覚知から病院への搬送までの時間を平均し約40分と主張していた。ただ、これは入院が必要な傷病者を対象とした2次救急のデータだと同署員は明言した。2次救急は3次救急と違い、現場で救急隊員が病院を選定するため時間のロスがあり、事件当日を想定するデータとして成り立たない。

 田中さんの異変は午後5時50分ころに発生し、同6時に悪化したとされる。証人尋問では押尾被告が午後6時30分以降も田中さんの死を認識していなかったという証言が相次ぎ、検察はその証言に加え、心臓マッサージでできた胸骨骨折と肺水腫の発症が死亡時期と符合するとして、死亡推定時刻を午後6時47分から同53分の間と設定した。もし押尾被告が田中さんの容体が急変してすぐに119番通報すれば、田中さんを救命できた可能性が高いことが時間からも分かる。

 弁護団は田中さんが6時ころに急死したため、救急車を呼んでも救命の可能性はきわめて低いと反論しているが、その主張は苦しくなった。保護責任者としての外堀が埋められつつある中、遺棄についての立証の可能性も高まった。

 [2010年9月10日8時24分

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