2日に亡くなっていた俳優大滝秀治さん(享年87)の遺作となった映画「あなたへ」に主演した高倉健(81)が5日、大滝さんへの感謝と追悼の思いをつづったコメントを発表した。多くの映画で共演し、今年8月の日刊スポーツの取材には大滝さんについて「僕が一番尊敬する俳優」と話していた。入院中の大滝さんとの手紙のやりとりも明かし、文面から、俳優を今後も続けていく勇気をもらったという。2人は深い絆で結ばれていた。

 高倉のコメントには、大滝さんへの敬愛がにじんでいた。「最後のお仕事の相手を務めさせていただき、感謝しております。今までご一緒させていただいたいろいろな場面が思い浮かびます。本当にすばらしい先輩でした」。

 かけがえのない先輩だった。今夏、大滝さんから1通の手紙が届いた。8月、高倉は日刊スポーツの取材にその内容の一部を明かし、思いを語っていた。

 「病院にまだ入っています」という書き出しの文面には、自分への感謝の気持ちがつづられていた。高倉が「あなたへ」の中の大滝さんの演技を絶賛していると知ったそのお礼だった。漁師役の大滝さんが高倉演じる主人公に「久しぶりに美しい海を見た」とつぶやく場面を「平凡なセリフだと思ったが、大滝さんが言うことで深い意味を感じた」。撮影直後、あまりの感動に現場で涙をこぼした。高倉は俳優をこのまま続けていくのか、迷っていた時期だったが、その演技を目の当たりにして「まだまだ一生懸命やっていかなきゃだめだと思い直させてくれました」という。

 大滝さんの手紙には「1つのセリフには9つの言い方があると教えられてきたが、私は1つしかないと思っています。あの時は心を込め、その1つでセリフを言いました。それをあなたは分かってくれてうれしい。ありがとう」と書かれてあったという。テクニックではなく、気持ちが何より大事。「思っていることが一緒でした」。以来、手紙のやりとりが続いた。

 俳優人生が完全否定から始まった共通点もあった。大滝さんは劇団入りしたが演出家から「声が悪い。裏方やれば」と言い渡された。高倉も映画デビュー前の演技レッスンで「俳優に向いていない。ほかの仕事をした方がいい」と告げられた。

 「そういう部分もあって僕はずっと大滝さんを見てきた。自分が頑張る力になってくれる。僕が会った中で最高の俳優さん」

 映画「駅

 STATION」など多くの映画で共演した。精神的な支えでもあった先輩が旅立った。この日発表したコメントは「静かなお別れができました」とかみしめるような言葉で結ばれていた。【松田秀彦】