第66回カンヌ映画祭授賞式が26日(日本時間27日)行われ、是枝裕和監督(50)の「そして父になる」(10月5日公開)が審査員賞を受賞した。最高賞パルムドール、審査員特別大賞に次ぐ賞で、邦画の受賞は故三国連太郎さん(享年90)が監督した87年「親鸞・白い道」以来26年ぶり。主要賞受賞も、河瀬直美監督の「殯(もがり)の森」が07年に審査員特別大賞を受賞して以来6年ぶり。子どもを中心とした高い演出力と、明確なテーマ性を持った脚本が世界で認められた。

 世界各国から集まった映画関係者から祝福の拍手を全身に浴びた是枝監督は、賞状を持った右手を誇らしげに上げた。

 「一足先に帰った福山さんはじめ、みなさんと一緒に喜びたいと思います。非常に個人的なことですが、今回の父と子の話を作るのに感謝の言葉を述べたいと思います。僕を子どもとして生んでくれた、もう亡くなりましたが、父親と母親に、あと僕を父親にしてくれた妻と娘にお礼を申し上げます。ありがとう」

 01年の「DISTANCE」でコンペティション部門に初ノミネートされてから12年、柳楽優弥が男優賞を受賞した04年の「誰も知らない」から9年ぶりのコンペ選出で、監督としては初受賞。新作を作ってはカンヌの関係者に見せ続けてきた9年を「あっという間でしたね。ずっと映画を撮っていたので、非常に充実してました。1つずつ皆さんに届けられたかな、と自信も生まれています」と笑顔で振り返った。

 子どもを中心とした演出力の高さを評価された。近年、両親を亡くし、親となり、家族の中の立ち位置が変わった自身のあり方を、向き合うべきテーマと位置づけて映画を作り続け、現代の子どもの置かれた状況を描こうと思い立った。そんな中、約3年前に福山と出会った。NHK大河ドラマ「龍馬伝」の収録を終えて演じることへの志向が高まっていた福山に、温めていた父親役のプランを提示。福山も強い意欲を見せて快諾した。加えて以前から調べていた里子制度などから、子どもの取り違えの物語を作った。

 日本的に見れば、福山を軸に据えた“スタームービー”だが、そこに血縁、過ごした時間などを絡めた「家族の絆」というテーマを盛り込んだ。福山演じる一流企業社員は、子どもを取り違えた相手側の、リリー・フランキー(49)演じる電気店主から子どもと接する時間の少なさを批判され、血縁、親としてのあり方に悩む。その姿を等身大の目線で描くことで「自分だったら…」ということを全世界に問うた作風が、カンヌの心をつかんだ。

 子役に台本を与えず、即興で演じさせる生々しい手法は、審査委員長のスティーブン・スピルバーグ監督から「僕も同じやり方で撮る」と絶賛された。だが、「まだ上がある。まだまだ頑張る余地があると自分に言い聞かせ、また新作を持って来られたら」と是枝監督は言った。目指すはパルムドール。挑戦は続く。

 ◆是枝裕和(これえだ・ひろかず)1962年(昭37)6月6日、東京都生まれ。早大第一文学部卒業後、制作会社テレビマンユニオンに参加し、ドキュメンタリー番組を制作。95年の監督デビュー作「幻の光」で、ベネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞などを受賞。08年の「歩いても

 歩いても」でブルーリボン賞監督賞。昨年は、初の連続テレビドラマとなるフジテレビ系「ゴーイング

 マイ

 ホーム」も手がけた。