アエラスタイルマガジン(朝日新聞出版刊)山本晃弘編集長(55)の著書「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」(クロスメディア・パブリッシング刊、税別1380円)が、大きな反響を呼んでいる。3月21日に初版が発行されて以降、サラリーマン、新社会人、就活生の購入が相次いでいる。「ビジネスマンのバイブル」になりつつある同書で、提示しているスーツの着こなしルールとは…。山本氏をインタビューした。

 

 -インパクトのあるタイトルですね

 山本氏 楽天の三木谷浩史氏、サントリーの新浪剛史氏、日産のカルロス・ゴーン氏、サッカー元日本代表の三浦知良氏。この4人の共通点は「仕事ができる」。そして、小さめのスーツを着ています。アエラスタイルマガジンの表紙撮影やインタビューでお会いし、私が感じたことです。実は、小さめに見える彼らのスーツこそ適正サイズ。多くのビジネスマンが大きめのスーツを着ているために、適正サイズのスーツが小さく見えるのです。

 -小さめ(適正)のスーツを着る効果とは

 山本氏 体にフィットしたスーツを堂々と着こなす立ち居振る舞いは、スピーディーに仕事に向かい、結果も出す印象を感じさせます。三木谷氏、新浪氏、ゴーン氏、三浦氏の共通点がそこでした。一方で、大きめのスーツを着ている米国のトランプ大統領には、威厳を感じても、動きの速さは感じられません。

 -出版のきっかけとは

 山本氏 「スタイリッシュになるには、センスではなく、ルールを知ること」。10年前に、アエラスタイルマガジンを創刊した時から言い続けていることを、より広く伝えたいと思ったからです。ファッション誌はよく「モテるための〇〇」と表現しますが、スーツ選びに関しては、的外れなのです。

 例えば、「丸の内ビジネスマン1000人調査」での質問「ビジネススタイル 誰の視線を意識しますか?」には、「取引先51%」「女性全般40%」「同僚33%」「部下18%」の回答がありました。

 「心掛けているイメージは」の質問には、「清潔感66%」「シンプル60%」「知的28%」で、「モテる」は6%でした。

 つまり、ファッション誌が言い続けた着こなしのキーワード「モテる」は、少数だった。長くファッション誌の編集をやってきた者として反省し、何を提示すべきかを考えました。

 -確かにこの本には、スーツを着こなす「ルール」が明記されています。代表例を教えてください。

 山本氏 では、スーツとシャツとネクタイで作るVゾーンについて。

 〇ルール1 Vゾーンに使う柄は2つまで。

 これは、着こなし上手になる重要な要素です。Vゾーンの柄は2つまで。スーツ、シャツ、ネクタイをすべて柄にすると、チグハグな印象になります。つまり、スーツがストライプなどの柄で、ネクタイも柄なら、シャツは無地が良しということです。

 〇ルール2 Vゾーンを同系色でまとめる

 Vゾーンを印象的にするために、色の使いすぎになりがちですが、同系色でまとめると、着こなしが上品な印象になります。トランプ大統領は、赤のタイをしていますが、押し出しの強さをアピールする狙いが見えます。ビジネスマンも、プレゼンで勝たなければいけない時に、強い色のタイは効果的です。ただ、会社で部下から相談される時は、威圧感を与えるので止めた方がいいです。

 -なるほど。あらためて「小さなスーツ」のことですが、太ってくると、大きめのスーツを選びがちになります。

 山本氏 欧米では「太っているとエグゼクティブになれないと」とも言われますね。自己管理しているかどうかの問題もありますが、良くないのが「太ることも考えて、大きめを買っておこう」という発想です。これが仕事ぶりを表しています。例えば、記者や編集者が「原稿の行数をオーバーしたけど、まあいいや」と思うか、「これではダメだ。すぐに書き直そう」と思うかということ。人柄は服に出ることもあるし、適正のスーツを着ていると、仕事ぶりも人柄も変わることがあるのです。

 -適正のスーツを買うには、オーダーメードがベストだと思いますが、既製品でスタイリッシュに見せる方法は

 山本氏 百貨店に行くことをお勧めします。いろんなブランドのスーツを見られますし、試着もしながら、自分に合うシルエットを選べるからです。そして、お気に入りの店を見つけたら、百貨店でも量販店でも行き続ける方がいい。今の時代、会員カードで、買ったスーツのデータが残っています。「〇〇さん、1年前もストライプのネイビーを買われていますが、今シーズン、グレーはどうですか。また印象が変わりますよ」となるからです。あとは、パートナーと一緒に足を運ぶのもいい。独り善がりではなく、客観的にサイズや色を見てもらえますから。

 

 同書には、他にも「ブラックスーツが許されるのは、就活生だけ」「スーツのクリーニング頻度は、多くてもシーズンに1回」など、数多くの着こなしルールが記されている。その上で、「名刺交換の瞬間、力量は測られる」「接待の店をグルメ検索サイトで予約してはいけない」「お詫びのお土産は重いものにすべし」など、ビジネスマンの心得も紹介している。これらの情報を参考にすべく、母親が社会に出る息子に、同書をプレゼントするケースも相次いでいるという。【取材・構成 柳田通斉】

 

 ◆山本晃弘(やまもと・てるひろ)1963年、岡山県生まれ。早大法学部卒後、「MEN,S CLUB」「GQ JAPAN」を経て、08年4月、朝日新聞出版社の設立に参加。同年11月、編集長として「アエラスタイルマガジン」を創刊。ビジネスマンや就活生に、スーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。