調教師の自主廃業続出、競馬も格差社会
一昔前はいざしらず、今は調教師稼業も楽ではない。メリット制が導入された04年以降、定年の70歳を待たずに廃業を余儀なくされる調教師が増えた。不振の厩舎は馬が集まらずに空き馬房ができ、赤字経営に陥る。上下の格差は開く一方。日本の国全体と同様の状況だが、現状が果たしてあるべき姿なのだろうか。
定年まで8年を残していた笹倉師が2月で廃業し、松元省師と福島勝師も定年前に引退した。かつては厩舎がつぶれることなどあり得なかったが、04年から成績によって馬房が増減されるメリット制導入をきっかけに安泰神話は崩壊した。この年以降、10人を超える調教師が70歳を待たずに免許を返上。馬房数分の馬が集まらずに馬主からの預託料収入が減り、赤字経営に陥るケースがほとんどだ。
「経営努力が足りなかった」と笹倉師は自らに責を課したが、負のスパイラルに足を踏み入れると巻き返しが難しくなる仕組みになっている。メリット制による馬房削減→馬主の信用を失う→馬主離れ→馬が集まらない→赤字で経営体力消耗→廃業。本年度から2馬房減るA調教師は言う。「一度下降線になると、はい上がるのは大変。赤字だからといって、月50万円のカイバ代(預託料)を水増しして請求するわけにもいかない。1月から3月は2歳馬を入れるにも早過ぎるし、補充がきかない一番苦しい時期。今いる馬も、なかなかレースに出せないのがつらい。長く付き合いのある馬主さんがいるから何とか続けているが、いつでもやめる覚悟はできている」。00年に厩舎の上限預託頭数が馬房数の3倍まで認められ、成績上位厩舎に馬が偏ったことも馬集めを難しくした。
バブル期までは馬主にも金銭的な余裕があって多少成績が悪くても長い目で見てくれたし、ペイできる出走回数も確保できていた。レースに出走すると、馬主には約35万円の出走手当が支給される。ところが今は調教技術の進歩や育成牧場の充実などで競走寿命が延びて全体の稼働頭数が増え、慢性的な除外ラッシュ。賞金を稼ぐどころか出走すらままならない。64歳のB調教師は「2カ月で3回出走できれば馬主も楽しめるが、今は障害未勝利など2カ月に1度しか出られない状況。競馬に使えない馬を厩舎に置いていても出費がかさむだけだから、放牧に出してくれと言われる。自分が馬主でもそうするよ。月50万、60万の経費が半分で済むのだから」と馬房が空く理由の1つを説明した。
上位厩舎と下位厩舎の差は開く一方。下位厩舎を支える個人馬主は競馬に使う機会が減り、深刻な馬主離れにつながっている。
こうした現状を踏まえ、最近は経営縮小で苦境を打開する動きが出てきた。いくつもG1を勝っているC調教師は定年まで3年を残す今年、6馬房を返上して12馬房で続ける決断をした。収入は減るが、リスクも少なくて済む。「経営者として従業員を養う義務がある。そのための最善の方法。負ける方が多い世界だが、従業員には負け犬になって欲しくない。負けるのが当たり前になってはダメ」。実績も腕もあって勝負師の魂も失っていなくても、現実は厳しい。
[2008年3月4日7時57分 紙面から]
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