オシム氏帰国、示した日本愛「ガンバレ」
サッカー前日本代表監督のイビチャ・オシム氏(67)が日本での「最後の講義」を行った。昨年いっぱいで日本協会とのアドバイザー契約が終了し、4日オーストリアへ帰国した。サポーター約300人と報道陣、ゆかりの選手・スタッフに見送られた成田空港では、約1時間立ちっぱなしで、それぞれに自分の考えを説いた。貧血のような症状が出て、立っていられなくなるまで熱く語った。今のところ再来日の予定はなし。日本への深い愛情を最後まで示し、大きな財産を残して旅立った。
命を懸けた最終講義は、飛行機に乗り込む直前まで続いた。車いすで搭乗タラップに向かったオシム氏は、右こぶしを振りながら、熱っぽく語った。
オシム氏 W杯予選終了後の3カ月が、日本にとって大事。W杯本大会でいいプレーをするために、しっかり準備をしなければならない。皆さんも予選突破に満足せず、選手に対して「もっと走れ、もっと戦え、もっとリスクを冒せ」と言い続けてください。
最後は再びこぶしを固めながら、日本語で「ガンバレ、ガンバレ、ガンバレデス」。日本が前回のW杯ドイツ大会予選で、世界で最も早く突破を決めながら、本大会で惨敗した様も見ている。選手や監督はもちろん、ファンやメディアも、予選突破の瞬間から本大会に気持ちを切り替えるべき-。日本への深い愛がこもった、熱いエールだった。
車いす出発には、理由があった。出国に先立つ成田空港出発ロビー。オシム氏は報道陣に対し、日本で最後になるかもしれない“語録”をつづっていた。
オシム氏 W杯予選を通過すれば、監督の仕事もメディアの仕事も、半分は終わる。では残り半分は? メディアには、W杯本番で何が起きそうなのか、リアルな情報を世間に伝えてほしい。自分たちと相手の力を、客観的に分析できる情報を与えてください。
言葉の合間に、あくびがまじる。語り終えると顔が急に青ざめ、その場に座り込んでしまった。日本協会の前田弘トレーナーは「あくびはおそらく、脳が酸欠状態になったから」と話した。無理もない。午前11時過ぎに空港ロビーに登場すると、約300人のサポーターの出迎えを受けた。感慨に浸りながら、丁寧に握手をし、言葉も交わした。
約20分後。今度はゆかりの選手・スタッフに囲まれた。浦和MF阿部、千葉DF坂本らに、別れの言葉とエール。そして最後は報道陣に対しての“講義”。立ちっ放しで話した時間は、ロビー登場から通算1時間近くに及んでいた。
07年には脳梗塞(こうそく)を患い、代表監督を退いていた。それだけにひやりとさせたが、実際には完治に近く、少し休むと体調は回復。「早まって死んだと報道されないようにしないと」と笑ったが、念のため、車いすを勧められた。
千葉時代からオシム氏に従ってきた日本代表の小倉コーチは「最後かもしれないから、きちんと話をしたい一心で、無理をしてしまったのだと思う。家を出てくる時も、日本の皆さんに失礼がないようにと、普段嫌がるネクタイもきっちり締めていましたから」としみじみと話した。身を削るような気迫で、日本の真の目標はW杯本大会での活躍と説く。オシム氏は命がけのエールで、丸6年の日本滞在を締めくくった。【塩畑大輔】
[2009年1月5日8時44分 紙面から]
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