ゴールポストが、ついに味方をしてくれた。0-1の前半42分。浦和MF武藤雄樹(26)は、MF宇賀神の強いダイレクトパスをうまくコントロールし、GKのタイミングを外して右足シュートを放った。ボールは右ポストに当たったが、リターンパスのように、ゴール正面に詰めた武藤の目の前に。左足で押し込み、同点ゴールを決めた。

 「いいところに跳ね返ってきてくれました。ずっとポストに阻まれてきたんですよね」と笑う。新戦力は高い戦術理解力と明るい人柄で、早々にチームに溶け込んだ。しかし3月のアジア・チャンピオンズリーグ北京国安戦など、惜しいシュートがことごとくポストに当たって外れ続けていた。

 それでも腐らず、練習から愚直に、懸命にゴールに向かって走り続けた。お笑い芸人の物まねをしたり、「東京の武藤のバーターで記事になっている」といじられて笑いを取ったりと、チームも盛り上げ続けた。至誠にして動かざるものはいまだこれあらざるなり-。敵だったポストすら、ついに味方に変わった。

 初ゴール後も武藤は「じゃない方の武藤がやりましたと書いておいてください」と自虐ネタで盛り上げることを忘れなかった。チームも1点を先制されながら、選手たちは「落ち着いていこう」と声を掛け合った。反撃を狙って前掛かりになって失点する従来の悪癖を抑え、きっちりと逆転勝ちで単独首位に立った。

 武藤の得点シーンでも見られた、縦方向への速い攻撃。球際の強さ。そして規律。最近は日本代表ハリルホジッチ監督の言葉として取り上げられることも多いキーワードだが、もともと浦和は知将ペトロビッチ監督のもと、3年以上かけてこれらの点を磨いてきている。新戦力もフィットし、試合運びも成熟。悲願のリーグ優勝への準備は、万端整っている。【塩畑大輔】

 ◆武藤雄樹(むとう・ゆうき)1988年(昭63)11月7日生まれ、神奈川県出身。サッカーの経歴は、FCシリウス-FC湘南-武相高-流通経大-仙台-浦和。J1通算75試合7得点。MF、FW。170センチ、68キロ。血液型はAB。