伝統的な通貨や度量衡の単位から、今年の夏に決まったEU離脱まで、欧州大陸とはあえて足並みをそろえない顔を持つ英国。サッカー界においても、「ウインター・ブレーク」のない独自路線を歩んでいる。

 大陸側の主要リーグは、クリスマス付近から2週間前後の中断期を迎える。欧州の人々にとってのクリスマスは、日本人にとっての正月のようなもの。故郷で過ごすファミリータイムなのだ。選手にとっては、シーズン前半でたまった疲れを癒やす貴重なひと時でもある。

 ところが、サッカーの母国ではシーズンが続く。中断期がないばかりか、日程が過密化する。英国庶民にとって、サッカー観戦は日常に欠かせない娯楽。実家に戻り、親兄弟と一緒に「心のチーム」の試合に足を運ぶことを楽しみにしている国民のために、プロ選手は働き続けなければならない。西ロンドンに住む筆者の周りにも、国内の北西部、中部、西部へとクリスマス帰省し、それぞれリバプール、ノッティンガム・フォレスト(2部)、ブリストル・ローバーズ(3部)の試合を家族で観戦する隣人がいる。

 今季のプレミアリーグでは、クリスマス前の週末から年始にかけての10日間前後に、全20チームが4試合ずつを消化することになる。試合間隔の面で最も厳しいのは、岡崎のいるレスター。23日夜のマンU戦から、中2日と中3日でワトフォードとリバプールとのアウェーゲームが続き、中1日で元日のハダーズフィールド戦というハードな日程だ。ピュエル監督がローテーションにこだわるのにも一理ある。

 各クラブのファンも、望むところとはいえ、移動の多いクリスマス休暇を強いられる。忠誠心の厚さでは国内随一とも言える、北東部の古豪ニューカッスルの「信者」たちは、チームを追って合計約1500キロもの距離を旅することになる。

 現場からは、ウインター・ブレークの導入を求める声が上がって久しい。最大のポイントは選手のコンディション。ただでさえ楽勝カードなどないと言われる過酷なプレミアでは、シーズン半ばに充電期間のない選手の体が、大事なシーズン終盤に悲鳴を上げる例が珍しくない。例年、故障者の多いアーセナルでは、ベンゲル監督が「実現したらうれしくて泣いてしまいそうだ」と、冗談まじりに中断期導入を懇願しているほどだ。

 ただし、他の欧州リーグが中断している最中にも試合が続く現状は、プレミアが破格の放映権収入を獲得できる理由の1つでもある。“TVマネー”が大きな収入源となっている各クラブにすれば、痛しかゆしといったところか。

 国内で、ほぼ一斉に「やはり導入すべきでは」との声が上がるのは国際大会の直後。選手が疲労困憊(こんぱい)で大会に臨むことが、母国代表が振るわない原因の1つと理解されるためだ。グループ最下位に終わったW杯前回大会、いわゆる弱小国のアイスランドに敗れて姿を消した昨年の欧州選手権も例外ではなかった。

 来る2018年はワールドカップ・イヤー。クリスマス時期の試合観戦に沸く国民が、W杯期間中に早期敗退で落胆しなければよいのだが……。ちなみに、今クリスマス時期に、移動距離の面でニューカッスルに次いで厳しい連戦をこなすチームは、ストライカーのケーン、トップ下のアリなど、イングランド代表にも主力が多いトットナムである。(山中忍通信員)

 

 ◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。青学大卒。94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には自らの言葉で、時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。