<欧州L:アストラ1-2ザルツブルク>◇1次リーグD組◇2日◇ルーマニア・ジュルジュ

 アギーレ監督、この男をご存じですか?

 ルーマニア1部リーグに所属するアストラMF瀬戸貴幸(28)が、欧州の舞台で初ゴールをマークした。ホームでのザルツブルク(オーストリア)戦にボランチとして先発すると、前半15分に右足ミドルシュートで先制点を決めた。チームは逆転を許し勝利を逃したが、日本代表招集歴が1度もない無印選手が、確かな足跡をしるした。

 欧州に「SETO」の名前をアピールした。力を抜いた、鮮やかなシュート。瀬戸が前線へ上がり、右サイドを切れ込んだMFエナケから、後ろ斜めのクロスを呼び込んだ。「強いパスじゃなかったからそのまま狙った」。ペナルティーエリアの外から右足を振り切り生まれた先制点は、初の欧州リーグで初ゴール。第1節はベンチのまま出番なく終えた悔しさは、先発からわずか15分で晴らした。

 「ボランチだけど、攻撃が好き。チャンスがあれば前へ走ることを考えていた。チームが勝てればベストだったけど僕も欧州リーグデビュー戦。次につながる」。ゴール後、背番号8の上の「SETO」を両手親指でアピールした。ドイツやイタリアを主戦場とする海外組の中では無印選手だが、アストラで8シーズン目を迎える28歳。愛知・熱田高時代から全国大会の出場経験はなく、高校卒業から風変わりな道を歩み、ルーマニアにたどり着いた。

 「プロサッカー選手になりたい」とアルバイトで資金調達し、1年間ブラジル留学。夢はかなわず、帰国後はフットサルクラブの愛知ニューウェーブスでプレーしながら次なる場所を探った。地元スーパーの総菜店でアルバイトしながら「おばちゃんたちのアイドル」だったが、瀬戸の夢は「プロサッカー選手」。もともと技術が高く、熱田高時代の恩師・江崎由幸監督(48)から「フットサルで日本代表を目指したらどうだ」と勧められても、サッカーでのプロにこだわった。

 ルーマニア3部だった同クラブの話を聞き、セレクションを受けて入団。1部まで上り詰め、プロとしてプレーする今の夢は「日本代表と欧州CL出場」だ。実は11年南米選手権に日本が海外組のみで出場する計画が浮上した際、日本協会が南米連盟に送った28人のリストに瀬戸の名前があった。昨秋は代表スタッフが視察。「日本代表は意識してるけど、ここでコンスタントに結果を残せるか」と足元を見つめる。

 今夏、あるJクラブからオファーを受けた。中東からは移籍金1億5000万円でのオファーも断った。すべては欧州で活躍するため。その先には日本代表も見えてくる。アギーレジャパン入りも、夢じゃない。

 ◆瀬戸貴幸(せと・たかゆき)1986年(昭61)2月5日、名古屋市生まれ。小学校時代は名古屋FCでプレーし、全国3位。宝神中-熱田高と進学。高校卒業後、ブラジル留学しコリンチャンスなどで練習参加。帰国後はフットサルの愛知ニューウェーブスでプレー。07年夏に当時ルーマニア3部のアストラへ入団。翌年2部へ昇格すると、2年で1部へ。昨季は国内カップ戦で優勝し、リーグ2位で欧州リーグ予備戦から出場し、本戦出場を決めた。181センチ、71キロ。

 ◆欧州リーグ

 欧州チャンピオンズリーグ(CL)に次ぐ位置付けの欧州カップ戦。従来のUEFA杯の大会方式、名称を変更し、09-10年シーズンからスタートした。4チームずつ12組に分かれて1次リーグを戦い、各組上位2チームと欧州CL1次リーグ各組3位を加えた32チームが決勝トーナメントを戦う。